生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

32.ルッシャー領3

「トロワ!!」

 急いでトロワの元に駆け寄る。心臓が早鐘を打つように、不安で彼を覗き込む。

「大丈夫だ…、俺は光の精霊だ……ぞ?」

 そう言うと、トロワはパタリと目を閉じた。

「トロワ!!」

 スースー……

「寝て……る?」

 トロワの顔を見ると、先程の苦しそうな顔は和らぎ、寝息を立てていた。

「リリア様? 精霊は大丈夫でしたか?」

 心配そうなユーグに、私は涙を浮かべて頷いた。

「うん!」

「うわああああ」

 安心したのも束の間、近衛隊の方から叫び声が聞こえてきた。

「リリア様、ここにいてください!」
「ううん、私も行く!」

 ユーグの言葉に、私は力強く答えた。

「くれぐれも無理はしないで。自分が隊長に怒られますから」

 私の強い決意に、ユーグはふう、と折れると、いつものように冗談を言った。

「わかってるわ!」

 私はトロワを安全な場所に隠すと、ユーグと一緒に、近衛隊の所まで走った。

「ユーグ! 何故リリア様を連れてきた!」

 現場に到着すると、イスランの怒声が響いた。

「そんなことより、どんな状況?!」

 ユーグに怒るイスランを制して、私は彼に言った。

 辺りを見渡すと、騎士が何人か倒れている。

「あいつの目をやったは良いものの、手当たり次第暴れやがって、迂闊に近寄れない」

 巨大蛇(ジャイアントスネーク)の方を見れば、目から血を流し、その巨体で辺りの木をなぎ倒している。

「しかもあいつの毒に部下がやられている。一刻も早く手当てしないと」

 イスランからは焦りが見えた。

「ユーグ、少しだけあいつの注意をそらせる?」
「出来ますけど、リリア様、何を……」
「説明している暇はない。出来る?」

 私は困惑するユーグにピシャリと言った。

 毒にやられた騎士たちのことを考えると、イスランの言う通り、時間は無い。

 トロワはいないけど……

 ドラゴンを境目に押し込んだ時の攻撃以上の力を、今なら使える確信がある。

 こちとら、『リヴィア』の時から聖女をやっているんだ。感覚はわかる。

「俺も行こう」

 ユーグとのやり取りを聞いていたイスランが、私に向かって言った。

「え」

 意外な申し出に、思わず固まると、相変わらずの仏頂面で彼は言った。

「時間が無いんだろう」
「お願いします……!」

 イスランの言葉にハッとし、そう答えると、「行くぞ」と言って、彼はユーグを連れて、巨体蛇(ジャイアントスネーク)の元に向かった。

 二人を見送り、私も準備を整える。

「光よ、集まれ」

 ポゥ、と自分の手に光を集め、私は光の剣を作り出す。

 大きく、もっと大きく!!!!

「うおおおお」

 少し先では、イスランとユーグが巨体蛇(ジャイアントスネーク)に攻撃をしていた。

 目を潰されたそいつは、手当たり次第暴れていた身体を、攻撃された方向に焦点を当てた。

 今ね!!

 私は光の剣を構え、走り出した。

「いっけええええ!!」

 出来るだけそいつに近づき、私は手を前に出した。

 ありったけの力の光の剣。

「首元を狙え!!」

 イスランの叫ぶ声が聞こえて、私は首元めがけて、剣を放つ。

 ギィヤアアアア

 けたたましい魔物の声が辺り一帯に響く。

 私は力いっぱい魔力を注ぎ込み、剣を突き立てる。

 ギロリ、潰されたはずの巨大蛇(ジャイアントスネーク)の目がこちらを見るかのような迫力。

 態勢を変えようとした、その時。

 ザシュッ、と音がしたかと思うと、そいつの首は真っ二つになり、沈黙した。

 私の光の剣を押し込むように、イスランが剣を振るってくれたようだった。

「終わった?」
「リリア様!!」

 気が抜けて、沈黙した巨大蛇(ジャイアントスネーク)を呆然と見ていると、ユーグが駆け寄ってきた。

「リリア様! 大丈夫ですか? お見事でした!」
「ユーグも、ありがとう……イスランも、イスラン?」

 ユーグにお礼を言って、イスランを探す。

「おい! しっかりしろ!」

 イスランは倒れる部下の元に駆け寄っていた。

「私たちも行きましょう!」

 私は慌ててユーグに声をかけて、イスランの元に走った。

 動ける騎士たちと一緒に、私は毒消しの薬を手分けして飲ませていった。

 幸いにも薬は効き、騎士たちの命は取り止められた。

「急いでルッシャー領の治療院に運びましょう」

 一通り処置を終えた私たちは、顔を見合わせた。

 何か、イスランの顔色悪くない?

「イスラン、大丈夫?」

 イスランを心配した私は、彼に声をかける。

「俺は…、大丈夫だ」

 いつもの憎まれ口に勢いが無い。

「見せなさい!」

 庇うように左腕を押さえていたイスランの右手を、私はグイと掴んだ。

「おい! 大丈夫だと言っているだろう」

 イスランに構わず、彼の腕を見れば、その部分だけ服は溶け、皮膚は爛れていた。

「副隊長、それ……」

 ユーグも気付いたようだった。

「毒にやられているわね」

 私の言葉に、イスランは手をグイ、とどけると、力無く言った。

「大丈夫だ……」

 その顔は青い。何が一体彼を強がらせるのか。

「副隊長、早く解毒をしないと!」

 心配そうなユーグの言葉に、イスランは何も言わない。まさか……

「まさか、もう毒消しの薬が無いの?」

 最悪の事態に緊迫が走る。

 私の問に、イスランは頷いた。

「そうだ。部下に全て使った」

 イスランは青い顔で答えた。肩で呼吸をし、苦しそうだ。

「何で言わないの!」
「言ったところで、薬はもう無い」

 怒る私に、イスランは諦めた顔をしている。

 ルーカス様といい、何でみんな死にたがりなの!

「これ!」

 私は鞄から『リリア印』のポーションを取り出した。

「これは、ポーションか……? ポーションでは毒を取り除けない」
「良いから、飲みなさい!!」

 グダグダ言うイスランに、私はポーションの蓋を取り、口に瓶を押し込んだ。

「リリア様、何て強行な……!」

 後ろでユーグが口を押さえて驚いているけど、気にしない。

「んぐっ……ぐっ……」

 私に無理やりポーションを突っ込まれたイスランは、何とかそれを飲み込んだ。

「はっ……、殺す気か!!」

 一息付いたイスランが、私に迫る勢いで叫んだ。

「あなた、自分で自分を殺そうとしていたのよ?」
「副隊長!! 顔色が戻って……!」

 イスランにお説教しようとしたら、ユーグが先にイスランに駆け寄ってしまった。

「なん、とも無い……?」

 イスランも驚いて、自分の身体をペタペタとしている。

「気分は?」
「だい、じょうぶ、です」

 目を瞬いて答えるイスランに、私は満足して笑った。

「それなら良かった!」 
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