生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

41.父の気持ち3

「リリア?!」

 急に部屋に押し入った私を見て、アレクは驚いてこちらを見た。

「お父様のためにマフィンを作ったの。今、食べて欲しい」

 私は見上げたアレクの瞳をしっかりと捕らえた。

「………わかったよ」

 アレクはしばらく沈黙したのち、静かに折れた。

 そして、私たちはダイニングに移動した。

 アレクと私がテーブル着くと、目の前に紅茶が置かれた。

「下がって良いよ」

 アレクが紅茶を運んで来たメイドさんに声をかけると、彼女はお辞儀をしてダイニングから下がっていった。

 シン、としたダイニングにはわずかにカップとソーサーの擦れた音が響く。

 静かに紅茶を飲むアレクを見つめ、緊張を抑えるように、私はそっと胸に手を置いた。

「トロワ」

 私はキッチンに控えていたトロワに合図をした。

「おうよ!」

 トロワは元気よく返事をすると、ふわりと宙に浮きながら、マフィンの載った皿を運んで来てくれた。

「トロワ?」

 アレクの横にふわりと来たトロワを見て、彼は不思議そうに皿を見たけど、それがテーブルに置かれると、表情を固めた。

 アレクはそれが何なのか気付いたのかもしれない。

「お父様……」
「いただきます!」
「えっ」

 アレクは私が何か言う前に、マフィンに手を伸ばすと、勢いよく、バクっと口にした。

 何も言わず、バクバクと食べ進めるアレク。

 私も何も言えずにそんな彼をただ、じっと見つめていた。

 やがて、マフィンを一気に食べ終えたアレクは、私の方に顔を向けると、やっと口を開いた。

「……美味しい」

 その表情は、何だか泣きそうな笑顔で。

 私も何だか泣きたくなった。

「ご、めんな、さい……」

 ポツリと口にすると、私の目からは涙が溢れてきた。

「何で泣くんだい」

 アレクは椅子から立ち上がると、私のすぐ目の前に来て、視線が合うようにしゃがんでくれた。

 私の涙を指で拭ってくれたアレクの表情は、いつもの変わらない優しいお父様の笑顔だった。

 でも、全てを知っているというような顔。

「あなたの愛するロザリーが生んだ娘はっ…、あなたが大切に育ててくれた娘はっ……」

 嗚咽で上手く話せない。ちゃんと説明したいのに、もどかしい。

 そんな私の背中をアレクは優しく撫でてくれた。

「ゆっくりで良いよ、リリア。ちゃんと聞いているから」

 その優しさが胸にじんわりと浸透するみたいに、私は落ち着きを取り戻していった。

「アレク、私はリヴィアの生まれ変わりなの」

 私はついに意を決して言った。

「……やっと話してくれたね」
「……え……」

 返ってきたアレクの言葉は意外で、私は驚いた顔でアレクの顔を見た。

 アレクは眉尻を下げて笑った。

「これでも父親だからね。リリアが何かを隠しているのには気付いていたよ」

 私の頭を優しく撫でて、アレクは続けて言った。

「リリアが聖女になって、ようやく一緒に過ごせるようになって、最初は大人になったあ、くらいだったんだよ。でも、だんだん、別人がリリアの中にいるような感覚を覚えるようになっていった」

 そうだったんだ。アレクは薄々、リリアじゃない私に気付いていたんだ。それでも、変わらない親バカぶりで接してくれていた。

「ロザリーがよく、リリアはリヴィア様の生まれ変わりだと言っていたのが、最近はよく思い出されてね。本当にそうなんじゃないかと思うようになっていた。それに……」

 アレクはちらりとトロワを見た。

「思い出したんだ。トロワはリヴィア様の従属だったってね」
「俺はおまえのこと覚えてたけどな!」

 アレクの言葉にトロワは得意げに言った。彼には聞こえないけど。

「でもトロワはライオンだったはず?」

 顎に手を置いて、首を捻ったアレクに、トロワは、「そのとおり!」と言うと、光出した。

「うわ?!」

 急に発光したトロワにアレクは驚き、更に目を丸くした。

 トロワが猫の姿から、ライオンの姿に変わったからだ。

「はは……本当にトロワ?」

 驚いて固まっていたアレクは、片手で顔を覆うと、笑った。

「アレク……」

 私は椅子から降りて、トロワの方を向いていたアレクと視線を合わせる。

 再び泣きそうな笑顔のアレクが、まっすぐにこちらを見て言った。

「お久しぶりです。リヴィア様」
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