生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

50.戦いの終わり

「イスラン、ユーグ、小物たちは任せたぞ!」

 私とルーカスは、トロワの背中に乗って、宙を駆け出した。

「もうやってますよー!」
「承知しました!」

 下からはイスランとユーグの返事が聞こえた。

 小さいながらも次々と湧いてくる魔物を、二人であっという間になぎ倒している。

 二人とも、さすが。強い!

「リリア、ルーカス、着いたぞ!」

 トロワの叫び声にハッとする。

 私たちは、気味の悪い赤い目の正面に位置取りをした。

「リリア、今の私たちなら大丈夫だ。トロワもいるしな」
「おう! 俺の力も使え!」

 私を抱えるようにして、トロワに乗るルーカスが後ろから声をかけ、前からはトロワの頼もしい言葉。

「うん!」

 私の返事を合図に、ルーカスが光の剣を作り出す。私も続いて詠唱した。

「光よ、集まれーーー!」

 ルーカスの光の剣と、私の光の剣。並んだ二つの光は、トロワの力により、大きく、大きく、融合していく。寄り添う心のように。

「いくぞ、リリア!」
「うん!」

 ルーカスの合図で、私たちは手を前に出した。

 融合した光の剣は、眩い光を放ち、真っ直ぐに魔王の目をめがけた。

 ギィィィャォォォ

 剣が魔王の目に刺さると、おぞましい断末魔が王都中に広がった。

「やったか?!」

 トロワの弾んだ声に、私たちも手を緩め、息をのむ。

「ダメだ!」

 沈黙したかと思われた魔王の手は、止まることなく、結界をこじ開けようとしている。

「ルーカス、もう一度……」
「……ああ…」

 私が後ろのルーカスに振り返ると、彼は青い顔をしていた。

「ルーカス?!」
「だい、じょうぶだ……」

 大丈夫じゃないよ!!

 そう思った瞬間、一緒にドラゴンを倒した時のことが蘇った。

 ルーカスは今のでありったけの魔力を使ったに違いない。次を打とうとすれば、命に関わるかもしれない。

「リリア、大丈夫だ。もう一度……」
「大丈夫じゃないよ! 人には無茶するなって言っておいて……」

 でも、私一人じゃ魔王を倒せない。どうしたら……

「リリア、やるしかないんだ」
「それでルーカスが命を落とすことになったら嫌だよ!」
「リリア!」

 わかってる!わかってるけど……

 私は言い聞かせようとするルーカスに、子供みたいに泣いて抵抗した。

「ルーカスが命をかけるくらいなら、私がやる」
「リリア!!」

 結局は、『リヴィア』と同じ選択をすることになるなんて。

 でも、私はきっと何度だって同じ選択をするんだ。大切な人を失うくらいなら……。

 強い決意でルーカスを見据えると、彼はそっと私の頬に触れて、泣いた。

「君をもう失いたくない」

 あ……。

 その時、ルーカスを残して死んでしまった『リヴィア』の後悔が唐突に胸をよぎった。

 ルーカスも私と同じだ。

 私たちはお互いを失いたくなくて……。

「リリア、お前の思うようにすれば良い」

 いつだって私の味方のトロワが語りかけた。

 うん。どうすれば良いのかわかったよ。

 トロワの優しい言葉に、私の手は自然と動いた。

 頬を伝うルーカスの涙をその手で拭うと、私はそっとキスをした。

 突然のことにびくりと肩を震わせたけど、ルーカスは目を閉じて受け入れた。

 私は聖魔法をルーカスに流し込んだ。ルーカスの魔力と私の魔力。トロワの力も借りて、優しく混ざり合っていく。

「リリア……これは……」

 唇を離してお互いに視線を絡ませると、私たちは前を向いた。

 次は別々ではなく、手を取り合って剣を生み出した。

「光よ、集まれーーー!」

 重ねあった手からは先程とは比べ物にならないくらいの眩しい光。

「行くぞ、二人とも」

「うん!」
「ああ!」

 トロワのかけ声と共に、私たちは手を前に出した。

 これで終わりよ!!

 パアアアアアン

 私たちの放った光は、魔王の目に届くと、その核を破壊し、内側から黒い光を消し去った。

 キラキラと光の残像が舞う中、私はすかさず結界を張る。

「結界よ、巡れーー!」

 キイイイン

 魔の国との境を覗かせていた結界は、みるみる修復され、強固なものへと生まれ変わった。

「今度のは二十年くらい大丈夫そうだな」

 張られた結界を見渡し、トロワが嬉しそうに鼻を鳴らして言った。

「終わった……の?」

 今度は二人とも生きて……?

 後ろのルーカスを振り返れば、彼は俯いていた。

「ルーカス?」

 彼に呼びかければ、振り返った身体をそのまま引き寄せられ、あっという間に彼の腕の中にいた。

「良かった……リリア……良かった……」

 安堵するルーカスの声に、涙が溢れた。

 私はひたすら呼びかけるルーカスの声に何度も返事をした。すると。

「リリア、ありがとう……」

 聞き慣れない女の人の声が聞こえたかと思うと、辺りが急に光り出した。

 その眩しさに思わず目を閉じる。

「リリア、ルーカス、ありがとう」

 先程の声の主をいつの間にか近くに感じ、目を開けると、私たちは広場にはいなかった。

 辺りが真っ白な何もない空間。目の前には、銀色の長い髪をした神様みたいに綺麗な人。

 私とルーカスは、お互い困惑した顔で見合うと、彼女に向き合った。

「女神様!」

 最初に声を出したのはトロワだった。

「女神様?!」

 私を生まれ変わらせてくれた、あの?
< 50 / 52 >

この作品をシェア

pagetop