生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜

51.女神様の提案

「トロワ、よく頑張りましたね」

 女神様はそう言うと、トロワの頭を撫でた。

「あのっ、女神様、初めまして。リリア・フォークスです」

 二人の前に出て、深く礼をすると、女神様はニコリと笑って言った。

「知っていますよ」

 ですよね……。女神様が私を生まれ変わらせたんだし…。

「リリア、また世界を守ってくれてありがとう」

 女神様は私の方に歩み寄ると、頭を下げた。

「いえ、私は出来ることをしただけです。それに、世界を守れたのは私一人の力じゃありませんから」

 私は正直な気持ちを話した。だって、私は恵まれていた。聖女の力にも、周りの人たちにも。

「リリアには普通に生きてほしいと思っていたのに…。今期の聖女は力も弱く、怠惰的だった。本当にごめんなさい」

 頭を上げた女神様は、申し訳なさそうに、手を頬にやった。

「いえ、おかげでルーカスにまた会えました」
「それについては私からも感謝したい」

 いつの間にか隣にいたルーカスは、女神様にそう言うと、私の手を繋いだ。

 私たちは見合うと、フフ、と笑った。

「そう……」

 そんな私たちを見て、女神様は穏やかに微笑んだ。

「じゃあ、二人にはお詫びに新しいギフトをあげましょう!」
「ギフト?」

 嬉しそうに両手を合わせた女神様に、私は首を傾げた。

「そう! リリアの年齢をルーカスと結婚出来る十六歳まで進めるの」

 女神様は嬉しそうに私に提案した。

「本当に…? そんなことが出来るの?」

 私は思わず言葉をこぼした。

 女神様は満面の笑顔で頷いている。

 本当に?私、ルーカスに追いつける?リヴィアだった頃の年齢まで進めるの?

 中身十六歳の私が本当の十六歳に?

 ルーカスと結婚出来る年齢に?

「ルーカス……!」

 私は、きっとルーカスも喜んでくれると思って彼の顔を見た。でも、彼の表情は期待したものとは違った。

「せっかくですが、そのお話はお断りします」
「ルーカス……!」

 ルーカスはこともあろうに、私の意見は聞かずに断ってしまった。

「ルーカス、何で……!」

 私は泣きそうになってルーカスに縋り付いた。

「リリア、君には君の人生をちゃんと生きて欲しい」

 わかってる!

「でも、ルーカスと結婚出来るんだよ?!」
「六年経てば出来るさ」

 知ってる!

「私は、ルーカスに釣り合いたくて……」
「リリア、君は充分すぎるほど魅力的な女性だ。私には勿体ないくらい……」
「ルーカスは私と結婚したくないの?」
「そんなわけないだろう!」

 子供のように泣きじゃくる私をルーカスは抱き締めた。

「リリア、君は王立学園(アカデミー)に通うんだ。」
「……いまさら?」

 私の背中をさすりながら、ルーカスは続ける。

「ずっと考えていた。これが終わったら、君の人生をやり直させてあげたいって」
「私は今の人生で満足しているよ」
「知ってるさ」

 フ、と笑い、ルーカスは私の涙を拭った。

「じゃあ、どうしてそんな離れるみたいなこと……」

 前からルーカスがそんなことを考えていたなんて。

 涙が止まらなかった。

「君が私の婚約者であることに変わりはない。ただ、リリアを自由に……視野を広げて欲しいと思った。それで六年後、私が選ばれなければそれだけの男だったということだ」
「私にはルーカスしか考えられない!」

 ルーカスの言葉に私は涙を流して抗議した。

 ルーカスは終始穏やかに笑っていて。

「ありがとう。私にもリリアだけだ。だから六年後、変わらずにいてくれるように私も努力するよ」

 ルーカスの固い決意が変わらないことは、もう充分すぎるほど伝わっていた。でも、それでも抗ってしまう。

「どうしても?」

 私の言葉にルーカスは困った笑顔で言った。

「そんなことをしたら、アレクとロザリーに顔向け出来ない」
「あ……」

 お父様、お母様。一気に二人の笑顔が浮かんだ。

「アレクとも大切な時間をどうか育んで欲しい」

 ルーカスの言葉に、私は自分勝手さに恥ずかしくなった。

 私は自分の気持ちばかりだった。アレクの、お父様がどう思うかなんて考えもせずに。

 ルーカスは私だけじゃない。フォークス家の皆の幸せを見据えて話してくれていたんだ。

「ルーカス、ごめんな、さい……ありがとう……」

 ポロポロと涙がこぼれ落ちる。ルーカスはそんな私を、優しく抱きしめてくれた。

「私が君を愛しているのは変わらない」
「それは私もだよ」

 変わらないルーカスの甘い言葉に、私も負けじと返した。

「……六年後、私はおじさんだな」

 ポツリと呟いたルーカスを見ると、彼は心配そうに私を覗き込んでいた。

「ふ、ふふふふ!」

 そんなルーカスを見て、私は思わず笑ってしまった。

「わ、笑うな! 六年後、更に綺麗になった君の隣に立つんだぞ……」

 ルーカスは赤くなりながらも、真剣に言った。

 何だ、ルーカスも同じような不安を抱えていたんだね。

 ルーカスの心に触れた私はすっかり涙が引っ込んでしまった。

「姿じゃなくて、魂に惹かれてくれたんでしょ?」
「ああ、そうだ」

 真っ直ぐ見据えて言えば、ルーカスも私をしっかりと見て答えた。

「それは私もだよ」
「リリア……」

「二人の答えは決まった?」

 私たちを優しく見守ってくれていた女神様から声をかけられる。

 私たちはお互いに見合うと、女神様に向かって頷いた。

 女神様は満面の笑みを浮かべた。

「二人の幸せをいつまでも見守っているよ」

 そう言うと、手を上げた女神様の手から光がキラキラと溢れ出した。

 そして、私たちは手を握ったまま、元の世界へと戻されて行った。

「トロワをよろしくね」

 最後に女神様の優しい声が聞こえた。
< 51 / 52 >

この作品をシェア

pagetop