生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜
8.結界を張り直そう
「お嬢様、いつの間に!!」
マリーが驚きながら早朝のキッチンに入って来た。
そう、私は今、マフィンを作っている。
『リヴィア』が得意だったし、レシピも覚えているのでやってみたのだ。
それが不思議なことに、身体も覚えていて、スラスラと作れてしまった。
身体が小さいので、踏台を使って台で調理し、少し大きいと感じる器具を使いこなすのには苦労したけど、すぐに慣れた。
「本で読んだんだ」
「お嬢様は天才ですね……!」
適当に誤魔化したけど、マリーは関心してくれた。ベタ褒めしてくれるマリーに、ちょっと申し訳なくなったけど、それ以上追求されなかったので、良しとする。
「うん! 美味しそう!」
作ったのはベリーとバナナのニ種類のマフィン。
すぐに王都に来るよう言われた私がなぜこんな呑気にマフィンを作っているかというと、理由がある。
昨日の夜、ルーカス様からお達しがあったのだ。
「フォークス領は国の要。ついでに他の結界も強化して回るぞ」
と。結界はあと三箇所ある。それを一日で回るという無茶なお達し。だから、軽食になるものをと、マフィンを作っていたのだ。
無茶ではあるが、引き連れてきた近衛隊もいるし、何より隊長のアレクがいる。そして、私、だ。
アレクは十年前から剣の腕が国で上位にはいるくらいで。隊長になった今は一番じゃないかな?
危険をはらむ以上、今結界を張り直すのには賛成だ。でもルーカス様、こんな無茶を言う人だっけ?そんなに焦るほど事態が深刻化しているとは思えない。せめて二、三日かけるべきだ。
「こんなすぐにお役目に行かれるなんて……危険は無いのかしら」
マリーは頬に手を置いて、ため息をついた。
「大丈夫よ、マリー! お父様だっているんだし」
私がニカッと笑ってみせると、マリーも少しだけ笑顔になった。
「そうですね。国一番の戦力とご一緒ですものね。でもお嬢様、無理だけはしないでくださいね?」
「はーい」
呑気に構える私に対して、マリーがピシャリと言った。
「俺もいるからまかせとけー」
「あら、トロワ、キッチンに入ってきちゃダメよ」
ドヤ顔で喋るトロワも、周りの人には「ニャー」だ。トロワの言葉虚しく、彼はマリーにキッチンから追い出されてしまった。
「俺にもマフィン寄こせー!」
あ、やっぱりそっち?
つまみ出されながらも叫ぶトロワに、後であげるからね、と心の中で思ったのだった。
◇◇◇
「来たか」
屋敷を出ると、ルーカス様が近衛隊を引き連れて待っていた。
「何だ、その荷物は」
ジロリとルーカス様は私の後ろにいた執事とマリーを見た。私のお手製マフィンの他に、シェフがお弁当を持たせてくれたのだ。近衛隊の分まで。
「ピクニックじゃないんだぞ!」
それを知ったルーカス様は機嫌が悪くなってしまわれた。でも。
「でもルーカス様、この広いフォークス領の結界を今日一日で回られるとおっしゃったんですよ。お食事はどうするんですか?」
私はルーカス様に正面切って言った。
ルーカス様は驚いて目を丸くし、近衛隊の先頭にいたアレクもびっくりして固まっていた。
「そんなもの……! 回復薬があるだろう!」
「それはお食事ではありません!」
ルーカス様、本当にどうしちゃったの?
「大切な騎士の皆様をルーカス様の無茶に付き合わせるのですから、お食事くらいちゃんとしないと……ちゃんと部下を労ってください!」
シーンとする場。
やっちゃったあああああ!!
十歳の子供ごときがルーカス様にお説教なんて、これ、やばい?!
私は慌ててお父様の方を見た。アレクは何だか笑っていて。騎士たちも優しく私を見ている。
「ルーカス」
アレクが笑いを抑えながら、ルーカス様の肩に手を置くと、
「好きにしろ…っ!」
そう言ってルーカス様は馬車に乗り込まれてしまった。
えーと…。お咎め無しってことで良いのかな?
「リリア」
アレクが私の側に来たので、私はすぐに謝罪した。
「お父様、ごめんなさい!!」
するとアレクはふわりと私を抱きかかえた。
「良いんだよ。リリアは何も間違ったことを言っていない」
おでこをコツンとつけてアレクは私に言った。
「ふふ。ルーカスと出会ったばかりのリヴィア様を見ているようだった」
あ……。
アレクは懐かしそうに目を細めて私を見ていた。
ルーカス様と婚約したばかりの頃。ルーカス様は自身を厳しく律していると同時に、その厳しさを周りにも求めてられていた。
そんなルーカス様とよく対立したっけ。結局はいつも私がルーカス様を言い負かして。
そうか、今のルーカス様はあのときのような雰囲気なんだ。
昔よりも、もっと冷たい空気をまとっているけども。
「ロザリーはよく君がリヴィア様の生まれ変わりだと言っていたけど……」
昔を思い出していたので、アレクの言葉にドキリとする。
「でもリリアはリリアだ。けして無茶をしちゃダメだよ? 私が絶対にリリアを守るから」
父親の顔をしたアレクは、『リリア』に向かって真剣な顔で言った。
「わかった、お父様!」
私も子供らしく笑顔で返した。
こめんね、アレク。貴女の可愛い娘リリアは、本当に『リヴィア』の生まれ変わりなの。
少しの罪悪感を胸に、私はルーカス様たちと結界強化の強行軍に出掛けた。
マリーが驚きながら早朝のキッチンに入って来た。
そう、私は今、マフィンを作っている。
『リヴィア』が得意だったし、レシピも覚えているのでやってみたのだ。
それが不思議なことに、身体も覚えていて、スラスラと作れてしまった。
身体が小さいので、踏台を使って台で調理し、少し大きいと感じる器具を使いこなすのには苦労したけど、すぐに慣れた。
「本で読んだんだ」
「お嬢様は天才ですね……!」
適当に誤魔化したけど、マリーは関心してくれた。ベタ褒めしてくれるマリーに、ちょっと申し訳なくなったけど、それ以上追求されなかったので、良しとする。
「うん! 美味しそう!」
作ったのはベリーとバナナのニ種類のマフィン。
すぐに王都に来るよう言われた私がなぜこんな呑気にマフィンを作っているかというと、理由がある。
昨日の夜、ルーカス様からお達しがあったのだ。
「フォークス領は国の要。ついでに他の結界も強化して回るぞ」
と。結界はあと三箇所ある。それを一日で回るという無茶なお達し。だから、軽食になるものをと、マフィンを作っていたのだ。
無茶ではあるが、引き連れてきた近衛隊もいるし、何より隊長のアレクがいる。そして、私、だ。
アレクは十年前から剣の腕が国で上位にはいるくらいで。隊長になった今は一番じゃないかな?
危険をはらむ以上、今結界を張り直すのには賛成だ。でもルーカス様、こんな無茶を言う人だっけ?そんなに焦るほど事態が深刻化しているとは思えない。せめて二、三日かけるべきだ。
「こんなすぐにお役目に行かれるなんて……危険は無いのかしら」
マリーは頬に手を置いて、ため息をついた。
「大丈夫よ、マリー! お父様だっているんだし」
私がニカッと笑ってみせると、マリーも少しだけ笑顔になった。
「そうですね。国一番の戦力とご一緒ですものね。でもお嬢様、無理だけはしないでくださいね?」
「はーい」
呑気に構える私に対して、マリーがピシャリと言った。
「俺もいるからまかせとけー」
「あら、トロワ、キッチンに入ってきちゃダメよ」
ドヤ顔で喋るトロワも、周りの人には「ニャー」だ。トロワの言葉虚しく、彼はマリーにキッチンから追い出されてしまった。
「俺にもマフィン寄こせー!」
あ、やっぱりそっち?
つまみ出されながらも叫ぶトロワに、後であげるからね、と心の中で思ったのだった。
◇◇◇
「来たか」
屋敷を出ると、ルーカス様が近衛隊を引き連れて待っていた。
「何だ、その荷物は」
ジロリとルーカス様は私の後ろにいた執事とマリーを見た。私のお手製マフィンの他に、シェフがお弁当を持たせてくれたのだ。近衛隊の分まで。
「ピクニックじゃないんだぞ!」
それを知ったルーカス様は機嫌が悪くなってしまわれた。でも。
「でもルーカス様、この広いフォークス領の結界を今日一日で回られるとおっしゃったんですよ。お食事はどうするんですか?」
私はルーカス様に正面切って言った。
ルーカス様は驚いて目を丸くし、近衛隊の先頭にいたアレクもびっくりして固まっていた。
「そんなもの……! 回復薬があるだろう!」
「それはお食事ではありません!」
ルーカス様、本当にどうしちゃったの?
「大切な騎士の皆様をルーカス様の無茶に付き合わせるのですから、お食事くらいちゃんとしないと……ちゃんと部下を労ってください!」
シーンとする場。
やっちゃったあああああ!!
十歳の子供ごときがルーカス様にお説教なんて、これ、やばい?!
私は慌ててお父様の方を見た。アレクは何だか笑っていて。騎士たちも優しく私を見ている。
「ルーカス」
アレクが笑いを抑えながら、ルーカス様の肩に手を置くと、
「好きにしろ…っ!」
そう言ってルーカス様は馬車に乗り込まれてしまった。
えーと…。お咎め無しってことで良いのかな?
「リリア」
アレクが私の側に来たので、私はすぐに謝罪した。
「お父様、ごめんなさい!!」
するとアレクはふわりと私を抱きかかえた。
「良いんだよ。リリアは何も間違ったことを言っていない」
おでこをコツンとつけてアレクは私に言った。
「ふふ。ルーカスと出会ったばかりのリヴィア様を見ているようだった」
あ……。
アレクは懐かしそうに目を細めて私を見ていた。
ルーカス様と婚約したばかりの頃。ルーカス様は自身を厳しく律していると同時に、その厳しさを周りにも求めてられていた。
そんなルーカス様とよく対立したっけ。結局はいつも私がルーカス様を言い負かして。
そうか、今のルーカス様はあのときのような雰囲気なんだ。
昔よりも、もっと冷たい空気をまとっているけども。
「ロザリーはよく君がリヴィア様の生まれ変わりだと言っていたけど……」
昔を思い出していたので、アレクの言葉にドキリとする。
「でもリリアはリリアだ。けして無茶をしちゃダメだよ? 私が絶対にリリアを守るから」
父親の顔をしたアレクは、『リリア』に向かって真剣な顔で言った。
「わかった、お父様!」
私も子供らしく笑顔で返した。
こめんね、アレク。貴女の可愛い娘リリアは、本当に『リヴィア』の生まれ変わりなの。
少しの罪悪感を胸に、私はルーカス様たちと結界強化の強行軍に出掛けた。