だから、泣くな
「ちょっと奏音!桜井くんに何かされてない!?」
「うん、いじめっ子たちから私のこと庇ってくれただけだよ」
「あの桜井くんが奏音のこと庇ったの?」
「そう、自分でもびっくりだけどね。なんか、入学式に男の子に道教えたって話したでしょ?あの人が桜井くんだったっぽい」
「えー、何それ。桜井くんってあんまりいい噂聞かないんだよねぇ…」
「そうなの?意外といい人っぽかったけど?」
「見た目に騙されちゃダメだって。噂によると、やばい人たちとつるんでるらしいよ」
「まぁ、多分明日からもいじめ続くんだろうし今日もさっさと帰ろう」
「そうだね!クレープ食べよ!」
麗奈は甘いものが大好きだから、ほぼ毎日のように甘いものを食べてから帰るのが日課になりつつある。おかげで体重は増えたけど、私も甘いものが好きだからついつい付き合って色々食べちゃうんだよね。
それにしても、どうして桜井くんはあの時道案内をしただけの私の名前を知っているんだろう。あの時に名乗った覚えもないし、クラスが同じわけでもないのに。

「ただいま」
「あら、おかえりなさい。制服のまま出る?」
「着替えだけしてくる」
クレープ屋さんに寄って沢山話しをして、私は学校で何事もなかったフリをして家に帰る。今日外食するって言ってたし、嫌な思いをさせたくないから。
自室の鏡の前に立ち、今日もよく耐えたと心の中で自分を褒める。桜井くんが色々言ってくれたし、流石に明日からは少しマシになるよね。
そんなことを考えながらぼんやりと鏡に映る自分を見つめていると、Limeの通知が鳴った。
友達が少ない私は余程のことがないとLimeは来ない。誰からだろうと思ってアプリを起動させ、その名前を見て心臓が止まるかと思うくらい驚いた。
え、どこから私の連絡先手に入れたの?
一応クラスのグループLimeには入ってるけど、桜井くん違うクラスだよね?
うちのクラスに桜井くんと仲良い男子が何人かいるのは知ってるけど、その人たちから聞いたのかな。たしか、入学してすぐ何人かと個人的にLime交換したような気もするし。
<急にLimeしてごめんね。高橋に奏音のID教えてもらった>
高橋って、誰だっけ。未だにクラス全員の名前と顔が一致しない私は、拙い記憶の中から高橋さんの顔と名前を思い出す。
「あぁ、高橋って優弥(ゆうや)くんのことかな。よく桜井くんと一緒にいた気がする」
<先程はありがとうございました。如月奏音です。よろしくお願いします>
「とりあえずこれでいっか」
桜井くんにLimeを返し、私はお母さんと一緒に家を出た。
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