敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
お見合い回避大作戦
春と呼ぶには少し遅く、夏と言うにはまだ早い五月の半ば。
清々しい風とは真逆のどんよりした想いを抱え、久世七緒はひとり、緩やかに航行する豪華なクルーズ船のデッキに佇んでいた。
吐いた息が、重さを保ったまま潮風に消えていく。
『たまにはおばあちゃんとデートでもしない?』
今年七十歳を迎える祖母に誘われたのは一週間前のことだった。デート?と首を傾げた七緒に、さらに続ける。
『気分をリフレッシュするなら海がいいかしら。どうせならクルーズ船に乗ってアフタヌーンティーを楽しむのはどう? そうして海を見たら、嫌な思い出なんて忘れられるから』
一カ月前に二十六歳にしてはじめての恋に破れ、七緒は仕事まで失った。
以来ずっと失意の中。理不尽な人生に半ば疲れていたが、祖母の言葉も一理あると、お気に入りのワンピースを着て乗船したのはいいけれど……。
「お見合いだったなんて……!」
船が港を出た直後、祖母から知らされたのは衝撃的な事実だった。