敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
ドキッとした刹那、視界が聖でいっぱいになる。
「――っ」
チュッと音を立てたのは鼻先だった。彼の唇が軽く触れたのだ。
目を見開き、息を吸い込んだままフリーズする。
「なんか新婚みたいだな」
「し、新婚って……!」
七緒の頭の中をその二文字がぐるぐる回りはじめる。
当然ながら七緒たちはそういう関係ではない。あくまでも目的を同じにした運命共同体であり、聖は七緒の雇用主。それなのに頭頂部に続き鼻にキスをされ、七緒の心は大いに乱されていた。
「早いところ片づけて風呂にしよう」
何事もなかったかのようにタオルで七緒の額と頬の泡を拭い、聖が再び食器を洗いはじめる。
「七緒、流して」
聖の声で我に返り、七緒も手を動かした。