敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
「聖さん、これ持っていってください」
「これは?」
「お弁当を作ったんです。お昼も適当に済ませるって言ってたから」
聖の顔がぱぁっと明るくなった。
バッグごと引き寄せられ、バランスを崩して彼のほうに倒れ込む。
「やっぱり最高」
うれしそうに言って七緒の唇に軽く自分の唇を押し当てた。
(――ええっ!?)
まん丸にした目で彼を見つめる。思考は完全に停止していた。
「じゃ、行ってくる」
聖は何事もなかったかのように七緒の頭をポンポンと撫で、ブリーフケース片手に玄関を出ていった。
パタンとドアが閉まり自動で鍵が掛かると同時に、七緒はその場にペタンと座り込んだ。
「今、キスした……よね……?」
髪の毛へのキスの次が、昨夜の鼻先へのキス。徐々に核心部分に近づいたキスは、とうとう唇に到達してしまった。
(……でも、特別な意味はないよね)
最初の二回のキス同様、気まぐれでしたようなもの。お弁当がうれしくてお礼のリアクションがオーバーになっただけに違いない。
頭ではそうわかっているのに胸の鼓動にそれは伝わらず、七緒はしばらくそこから動けなかった。