敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
急速に縮まる距離、触れ合う唇
各検査項目の数値をパソコンで確認しながら、聖は診察にやって来た七十代の女性患者、笠原常子に向き合った。
「BNPの数値が若干高いですが、ほかはおおむね良好ですね」
BNPは心臓ホルモンといわれ、数値は心房の圧を反映している。心臓が血液をくみ出す力が低下してうっ血を生じたり、体に水分が貯留したりしたときに心房圧が高まってBNPが上昇する。
「その数値は高くても問題はないんでしょうか」
心配そうに聞き返した常子は一年前に心筋梗塞を起こし、聖がバルーン処置を行った患者である。今日は定期的な検査で来院していた。
「心臓の働きが低下したときに上昇しますが、高血圧や不整脈があると高くなります。笠原さんは血圧が少し高めですから、おそらくそのせいでしょう」
「心臓は大丈夫ですか?」
「心臓には症状が見られませんので、ご心配には及びません」
「それはよかったわ。加賀谷先生にそうおっしゃっていただけるとホッとするの」
聖が穏やかに微笑むと、胸を撫で下ろした常子にようやく笑顔が戻る。