敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
物腰がやわらかく上品な常子は五年ほど前に夫を肝臓がんで亡くし、以来自分の体は自分で守ろうと定期的な通院を欠かさない。
心筋梗塞が軽く済んだのも、常日頃から体の変化に敏感になり、早めの処置ができたおかげである。
「ところで加賀谷先生、なんだか顔色がとってもよろしいですね」
自分の体に心配がなくなった途端、意識が聖に向く。
「そうでしょうか?」
「ええ。加賀谷先生、とってもお忙しいでしょう? あまりお休みを取れなかったりするのもおありでしょうし、お疲れじゃないかといつも心配していたんです」
「患者さんに心配をかけるとは医者として失格ですね」
いたずらっぽく笑いかける。立場が逆だ。
「いえいえ。先生が倒れたら私たち患者は困りますから。でも今日は顔色がとってもいいから安心しました。ますます素敵ですよ、先生」
「それは光栄です」