敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
そう見えるのだとしたら、それは七緒のおかげにほかならない。
彼女と同居をはじめて間もなく二週間になるが、体調がすこぶるいい。朝食や夕食はもちろん昼食用にお弁当まで作ってもらえるため、栄養バランスに優れた食事を摂取できているおかげだろう。
それまでは外食ばかりでバランスなど皆無。三食しっかり摂るのもままならず、患者には『塩分は控えめにしてください』と指導するくせに、自分は棚上げだった。
七緒の作る料理はどれも優しい味で、食べるだけで癒し効果があると言ってもいい。
「きっと加賀谷先生にも素敵な女性ができたんでしょうね」
常子の指摘にドキッとさせられたが、微笑むだけに留める。
「それはどうでしょうか」
曖昧にぼかしながら「お大事に」と常子を診察室から見送った。
「今夜の夕食はなんだろうな」
ポツリと呟きながら七緒の顔を思い浮かべて頬が自然と綻ぶ。
彼女の手料理だけを楽しみにしているわけではないと、この頃の聖は気づいていた。