敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
恵麻が焦ってすがりつくが、山下は取りつく島もない。
「待てるわけがないだろう。ここで矯正しないで、いつするというんだ。私だっていつまでも生きているわけじゃないんだぞ?」
「そんなぁ」
「とにかくおふたりに誠心誠意謝りなさい。お前の再出発はまずそこからだ」
眉間に皺をざっくり刻み、唇をすぼめて突き出す恵麻と山下の目線が絡み合う。恵麻の表情は次第に歪みはじめ、目にじわっと涙が滲んできた。
「泣けば許されると思わないほうがいい。久世さんにしてきたことを思えば、熊本の工場で働くなんて手緩いものだ」
追い詰められた恵麻の感情が決壊する。人目もはばからずワーッと泣きだした。
「ご、ごめんなさい、すみません、でした……っ」
涙声でなんとかそう言い、その場に崩れそうになった彼女を父親が支える。
「本当に申し訳ありませんでした。加賀谷先生、どうかこれ以上はご容赦ください」