敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~

次期院長の妻として彼を支えなければならない威圧で心を病み、聖に申し訳ない気持ちを抱きつつも逃げるようにして離婚に至ってしまったそうだ。

病院の跡取りとして望まれている聖を置いていくのは、身を切られるように苦しかったと。その悲しみを紛らわせるためと、置いてきたからには料理人として成功する覚悟でグランビューレをここまでにしたのだろう。

江梨子はベッドに置いていたスマートフォンを手に取り、七緒に画面を見せた。

写真のようだが、被写体が判然としない。遠くから撮影したのか、写っている人がとても小さかった。


「これは?」
「聖よ。保育園や小学校の運動会にこっそり撮影したの。どれも小さいし、知らない人が見たら誰だか判別はつかないものだけど。昔は携帯なんてなかったから、普通のカメラで撮影して、現像した写真を改めてスマートフォンで撮影したの。こうすれば、いつでも写真を見られるでしょう?」


そう言って優しく笑う。子どもを愛してやまない慈愛に満ちた顔だ。
聖を捨てたわけではない。やむにやまれぬ事情があったのだ。
< 279 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop