敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
「聖を忘れた日なんてなかった。彼の成長を願いながら、いつか会えたら、ううん、会うのが許されるなら謝りたいってずっと思って生きてきたの。まさか昨日、あんな形で再会するなんて……」
江梨子がそこまで話したそのとき、カーテンがシャーッと音を立てて開かれる。
「……聖」
「聖さん」
江梨子と七緒の声が重なった。
いつからそこにいたのか、江梨子の話に聞き入っていたためまったく気づかなかった。
なんとも言えない複雑な表情をしているのは、七緒たちの会話を聞いていたからかもしれない。
聖と江梨子の間に、ほかの人間には入り込めない空気が立ち込める。七緒は静かに椅子から立ち上がり、ベッドから離れた。
「聖、少し話せないかしら」
江梨子の問いかけに、聖が椅子に腰を下ろすことで答える。
親子ふたりの会話に長居は無用。七緒は聖に「後でお弁当食べてくださいね」と、応接セットのテーブルに袋ごと置いて病室を出た。
きっと心配はいらない。どれだけの時が流れようが、江梨子が聖を愛していた事実は彼に伝わるはずだから。ふたりはきっとわかり合える。
確信にも似た想いを抱えながら、七緒は病院を後にした。