敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
二週間後――。
真っ白な船体がゆっくりと航行していく。七緒は聖に手を引かれ、潮風が心地いいデッキにやって来た。
港を離れて遠くなっていく夕刻の街並みは、明かりがポツリポツリと灯りはじめている。もう少ししたら綺麗な夜景を海から見られるだろう。
聖の適切な処置で一命を取りとめた江梨子は昨日、無事退院した。約三十年ぶりの対面となったふたりは、少しずつ距離を縮めているようだ。
何度かお見舞いに訪れた七緒は、診察のために江梨子の病室を訪れる聖から、主治医としての責任とは違うものを感じていた。
「聖さん、ほかの乗客はみんなどこにいるんでしょうね」
先ほどから船内スタッフ以外の人間がどこにもいない。今思えば、乗船するためにタラップを歩いているときから見かけなかった気がする。
「どこにもいないよ。貸し切ったから」
「えっ? 船を貸し切ったんですか!?」
得意げな顔をした聖の髪が風に吹かれてサラサラと揺れる。