敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
聖がスーツのポケットから取り出したものを見て目を丸くする。指輪だ。
「……そんなものまで用意してくれたんですか」
「三度目の正直だし、プロポーズにはこれが必要だろ」
聖に出会い、偽物の恋人になったクルーズ船のデッキで永遠の愛を約束するなんて、あのときの七緒が想像できただろうか。いや、できるはずがない。いっときの恋人、かりそめの婚約者だったのだから。
あのとき生まれた偽物の愛が今、本物へと変わっていく。
七緒の左手を取った聖が、今まさに指輪をはめようとしたそのとき――。
「あっ!」
手元が狂ったのか、聖の指先から指輪が弾かれて飛んでいく。
(大事な指輪が――!)
弧を描いたそれは一度手すりの上で軽くバウンドした後、夜の海にダイブ。あっという間に波間に消えてしまった。
「嘘でしょう!? どうしよう!」