敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
慌てて手すりから身を乗り出す。しかし必死に目を凝らしたところで、暗い海に飲まれた小さなジュエリーが見えるはずもない。
(聖さんからもらえるはずだった指輪が海に……)
信じがたい光景を前に、高ぶっていた気持ちが指輪と同じく弧を描いて沈んでいく。
プロポーズの言葉だけでも十分幸せだが、せっかく聖が準備してくれた指輪を受け取れないショックは大きい。手すりを掴んで海を呆然と見て立ち尽くす。
ところがそこでふと、聖がなにひとつ慌てていないことに気づいた。
「……聖さん、どうして……って、えっ、どういうこと?」
彼の顔から手元に視線を落として、襲われた既視感。満面の笑みを浮かべた聖が、小さなケースのふたをゆっくり開ける。そこには先ほどとは比べ物にならないほどの輝きを放つ指輪が堂々と鎮座していた。
七緒は今しがた指輪が飛び込んだ海と、聖が今手にしているケースを忙しなく交互に見た。
(ここにも指輪があって……それじゃ、さっきの指輪はなに?)
聖が、気が動転している七緒をクスクス笑う。