敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
眉間を人差し指と中指で強制的に伸ばされた。
ハッとその手をやんわりとどけて、改めてバッグを持つ。
「ご心配ありがとうございます」
口元を引きしめて大真面目にお礼を言った。
「ともかく今日はありがとうございました」
……と言っていいのだろうかと、頭を下げてからふと迷う。
(お見合いを回避できたんだよ……ね?)
その相手と偽りの恋人になったのは、正確には回避ではないような気がしなくもない。――が、相手も結婚を望んでいないのだから、やはりこれは回避で正解。
(うん、そうよね。だって聖さんとの結婚は絶対にないもの)
ひとりで納得して大きく頷いていると、隣から彼の視線を痛いほど感じた。
「百面相の練習?」
「百面相?」
「目を見開いたり、唇をすぼめたり」
「私、そんなふうにしていましたか?」