敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
同居の高額な条件
翌朝、身支度をした七緒は玄関でスリッパから靴に履き替えた。
「悪いね、七緒」
「ううん、どうせ暇してるから気にしないで」
昨日少し飲み過ぎたせいか体調不良を訴える孝枝の代わりに、降圧剤をもらいに病院へ行くことになった。無職の今は自由な時間がいくらでもあるため、祖母の薬をもらいに出かけるくらいなんでもない。
孝枝に見送られ玄関を出る。
十時を過ぎ、日差しも徐々に強まってきた。ふわっと広がるドット柄の黒いカシュクールマキシワンピースにスニーカーを合わせてGジャンを羽織っていたが、駅に着く前に脱ぐくらい暑い。
昨夜はよほど楽しいお酒だったらしく、孝枝は利幸と飲み過ぎてしまったのだとか。お互いの孫同士が結婚に向けて付き合いはじめた祝杯は、それはそれはおいしかったと、朝食の席でも繰り返していた。
〝結婚に向けて〟の部分には『まだわからないからね?』と七緒が何度も断りを入れたが、孝枝は『聖さんを逃したらダメよ』と聞く耳を持たなかった。
電車を乗り継いで到着した加賀谷医療センターは昨日、意図せず恋人同士となった聖が勤める病院でもある。