敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
「キミはいったいなんなんだ」
眼差しと声色から男性の不満はあきらかだ。
「どうもこうもありません。明日の朝〝東京湾に若い男性の遺体が〟なんてニュースは見たくないんです」
それも自分の目の前で飛び込んだ人なんて笑えない。
腰をさすりながら体勢を立てなおし、男性をじっと見据えた。
「誰が自殺するって?」
納得がいかないのか、彼の目が尖る。ただでさえシャープな印象の目は鋭さを増して、切れ味抜群だ。
(……違うの?)
負けずに見つめ返していた七緒の目からふっと力が抜け、癒し系と言われるいつもの顔に戻る。
「あなたです、けど……。今、ここから飛び降りようとしていませんでしたか?」
だんだんと自信がなくなり声も小さくなっていく。エンジン音と波音で聞こえづらい声は、今にもかき消されそうだ。