敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
狼狽える七緒と対照的に、利幸はやけにうれしそうにニコニコ顔だ。
「院長、ちょっとよろしいでしょうか」
七緒たちに制服姿の病院の女性スタッフが声を掛けてくる。
「じゃ、七緒さん、私はこれで」
「あ、はい。失礼いたします」
手を前で揃えて頭を下げる。
利幸はスタッフと並んで遠ざかっていった。
(どうしよう……!)
恋人のふりだけでなく同居の話まで持ち上がるなんて予想もしていない。それも七緒たち当事者ではなく、外野から持ちかけられるなんて。
呆然と突っ立っていたら、アナウンスの声が聞こえてきた。
「久世孝枝様、久世孝枝様、内科受付までお越しくださいませ」
気を取りなおして内科のカウンターへ向かう。