敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
「そんな無謀な真似をするわけがないだろう」
「それじゃ、どうして手すりから身を乗り出したんですか?」
今にも飛び込もうとしているようにしか見えなかった。
「ハンカチ」
「……ハンカチ?」
「風に飛ばされて海に落ちたから、その行方を目で追っていただけ」
「えっ……」
呆気にとられ、フリーズする。
なんと、落した物を探して身を乗り出しただけだという。飛び降りようとしたわけではなかったと。
指差すほうを見ると、彼の言った通り白地に青いラインの入ったハンカチが波間を優雅に漂っていた。波が立つたびに揺れ、どんどん遠ざかっていく。
「ごめんなさい! てっきりここから飛び降りようとしているのかと思って……!」
慌てて頭を下げて謝罪する。早とちりもいいところである。
「ほんと頼むよ」