敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
聖に乗せられ、なぜだか本当に気持ちが軽くなっていく。
(絶景の写真集よりも効果があったりして)
ふとそんなことを思ったら笑顔になった。
聖に連れられてやって来たのは賑やかな街から少し離れた郊外にある『雨隠れ』という料亭だった。横に設けられた駐車場に車を止めて降り立つ。
平屋の建物はまだ真新しく、出入口の織物のような木ルーバーがやわらかであたたかみがある。
中に入ると、すぐに五十代くらいの女性が出迎えてくれた。薄紫の生地に白い小花が散らされた着物を着た、しっとりとした美人だ。
「いらっしゃい、聖」
彼を下の名前で呼ぶほど親しい間柄なのか。
「こちらの女性がそう?」
女性の目が聖から七緒に移る。敵意はまったくなく、むしろ親しみやすい眼差しだ。