敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
七緒が躊躇ったのは、本当にこれでいいのかと漠然とした不安があったから。祖母をひとりにするのもそうだし、家事を引き受けるかわりに偽りの恋人から給料をもらうのもそう。
クルーズ船でお見合い回避のために描いた未来とまるで違うせいだ。
「そう? じゃ、なにかあったら連絡をくれ。なにもなくても連絡くれていいけど」
最後は眉を上げ下げして七緒をからかっていたら、彼の胸ポケットでスマートフォンがヴヴヴと空気を震わせる。
「悪い、病院からだ」
聖はひと言断って応答をタップした。
「はい、加賀谷です。……バイタルは?」
それまで笑顔だった聖の顔つきががらりと変わる。緊急事態だろうか、引き締まった表情から緊迫感が伝わってきた。
「わかった。すぐに向かう。そうだな……二十分あれば行けるから、それまで頼んだぞ」