敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~

何度も念押ししていたら、家のチャイムが鳴り響いた。
壁掛け時計を仰ぎ見たら午後一時。聖の到着だろう。

玄関のドアを開けると、ステージでライトを浴びたスターでもないのに目にも眩しい彼がいた。夏のぎらつく太陽の明るさではなく、清々しい森の中を真っすぐ照らす光と表現したらいいだろうか。品がある。


「ボーッとしてどうした?」


無意識に見惚れていたらしい。聖に声を掛けられて我に返った。


「あ、いえ……時間ぴったりだなと思いまして」


約束の時間にかこつけて誤魔化す。
事実、彼は定刻通りに家のチャイムを鳴らした。


「七緒の顔を早く見たかったから」
「……そういうのはやめてください」


つい素になって返してから、今は恋人のふりをすべき場面だとハッとする。聖は孝枝がすぐそばにいるからこそ演じているのに、うっかりし過ぎだ。
おまけにその演技にドキッとするなんて情けない。
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