わたしのかわいいだんなさま
「いやよ、やだ! いーかーなーいーのっ!!」
「行きましょうって! ほら、ガチュールのチョコレート菓子もありますから」
「いや、カリン。なんで今日の差し入れのお菓子知っているのよ」
「お嬢様の身柄と引き換えに取引しましたっ!」
「裏切り者ーっ!!」
次の日、メリズローサはカリンにずりずりと引きずられ離宮の門へと連れて行かれる。本当に足をずりずり引きずっていくので、靴の先が真っ黒になってしまっている。
普通のお嬢様と侍女なら有り得ない光景だが、買収済みのカリンなら当たり前の行動だ。
「メリー、メリー、メリズローサ。来てくれたのか?」
正確には”引きずり連れてこられた”だが、少し掠れたようなアルヴィンの声で名前を呼ばれて、メリズローサはドキリとする。
「殿下ぁ、チョコレート下さーい」
アルヴィンは持ってきたチョコレートを、箱ごと離宮内に思いっきりぶん投げ入れ、その勢いでメリズローサへ抱きついた。
「メリー、ごめん。あの、僕……なんだか、急に恥ずかしくなってきて……本当は、嫌じゃないんだ。あの、だから、また……会って、欲しい」
一生懸命説明しようとする姿がいじらしく、胸がきゅんとなる。
(少しばかり大きくて生意気になったからといっても、やはり可愛くて仕方がない私のアルヴィン殿下だわ)
そう思いながらメリズローサは、いつの間にかふわふわから、しっとりとし出した殿下の美しく光る金髪を梳き、胸にぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫ですよ、殿下。お気持ちはわかっておりますから」
「本当に?」
「ええ、勿論です。少しお痩せになりましたか? あちらでチョコレートとお茶をいただきましょう」
そう言って、今までよりもほんの少し長めのキスをした。