わたしのかわいいだんなさま
思春期特有のアレ事件から、段々とアルヴィンが白い離宮で過ごす時間が増えていったのは間違いない。
「全然休む時間がないです。労働環境の改善を訴えます」
などとカリンがほざいているからだ。
そもそも改善がいるほど働いてはいないのだが、離宮へ来てからの自由気ままな生活が身についてしまっているからゆえの戯言だろう。
そんなことはどうでもいい。アルヴィンがゆっくりとくつろいでお喋りをしていってくれるのはメリズローサにはむしろ大歓迎の事柄だ。
ただ、問題は一つある。それは――。
「っ、はぁ……で、殿下……」
「……ん、ん。……何、メリー?」
(キスが、長いですっ!)
あれからというもの、キスする時間がどんどん長くなっていったのも間違いない。
最初のうちは、恥じらいながら唇を、んーっとくっつけているだけだったものが、今では角度を変えては何度も何度も啄んでくるようになってきてしまった。
可愛いアルヴィンのすることだからと、メリズローサも好きにさせていたのだが、こう毎日毎日、朝晩2回とも長いキスをされると流石に唇が痛くなってきた。
メリズローサの問いかけで、ようやく唇から離れたアルヴィンは少々不機嫌だ。離宮生活9ヶ月目に突入した今、目の前のアルヴィンは彼女とほぼ同じ目線にある。
以前のように頬を膨らませるようなことはなくなったが、代わりにその形のいい眉がしかめられるようになった。
「あの、前回も申しましたが、その……もう少し短くできませんか?」
「無理だ」
(即答ですかっ!?)
「大体、1日に2回しかキスできないのに、これ以上短くしたくない」
殿下1ヶ月前といってることちがいます! などという突っ込みはせず、仕方がなく正直に話すことにした。
「すみません。少々唇が痛くて……」
チラッと上目遣いでみつめれば、アルヴィンは何やらカリンに耳打ちをされていた。そうして、ほんのり目元を赤く色付かせながら、うん。まあ考えとくと言って王宮へと帰っていった。
「珍しく役にたったわね、カリン」
「私は常にお嬢様の味方ですわ」
結果、次の日からのキスは、時間は短くなったものの、舌の絡まるようなめちゃくちゃ濃厚なものとなってしまった。