わたしのかわいいだんなさま

「そろそろ本気で労働環境改善をお願いしたいです」

 10ヶ月目を過ぎた頃から、殿下は本当に朝から晩まで入りびたりになってしまった。
 朝日と共に鳴く鳥よりも早く出向き、日付が変わるすれすれまで居座り続ける。
 うん、そろそろ私も限界かもしれないと、メリズローサも感じていた。完全な睡眠不足である。
 朝晩の濃厚なキスに加え、やたらベタベタと張り付きあちらこちらを触りまくる。そのたびに、なんとなく首筋がぞくぞくとするのだが、それを訴えれば逆に喜んでさらに触るの繰り返しだ。

(あー、お小さい時も嫌がれば嫌がるほどしつこくしてきた時があったわね)

 そう思えば、まだまだ可愛いらしく見えてしまう。
 実際は既にアルヴィンの身長はメリズローサよりも軽く10センチ以上は高くなっているのだが、そこは全く見えないらしい。
 可愛いフィルターとは恐ろしい。

 とにかくそんな理由で、カリンはともかくメリズローサは体力的にもギリギリだ。
 いかにしてアルヴィンに誤解を与えないように話そうかと思案していたところに、カリンのこの暴挙。
 どこから調達したのか、変なハチマキをつけ、のぼりを持ってわっしょいわっしょい吠えている。

 小さい時からカリンには苦渋を飲まされ続けてきたアルヴィンだが、このところ大分彼女の扱いに慣れてきたようで、適当に聞き流しながらベストなタイミングで人参をぶら下げる。

「よし、じゃあ休みをやろう、カリン」
「やっほー、マジですか?」

(え、本当に?)

「次は夕方に来るから、支度はゆっくりでいい。晩餐の後はもう呼ばないからゆっくり休め」

「えー、そんだけぇー?」

(いえいえ、十分です。昼まで寝られるとか、本当に久しぶりだわ……!)

 代わりにわっしょいわっしょいと心の中で小躍りしながら、生まれて初めて心からカリンに感謝したメリズローサだった。
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