わたしのかわいいだんなさま

【番外編】おどれバレンタイン!


「お嬢様ー!おじょうっーさーまーっ!!」

 歌う、というよりもオペラでも演じているかのように激しく体をうねらせながら、けたたましく音階をつけてメリズローサを呼びたてるのは、彼女の専属侍女のカリンである。

「なんなの、カリン。アルヴィン殿下の前よ、控えなさい」

 そう言ってカリンを窘めるのは、このバズウェルド王国王太子の愛を一身に受ける、若き花嫁、王太子妃のメリズローサ。

「いや、もういいから。ほっとこう。それより、ね? メリー」

 メリズローサの肩を抱き、今まさにその彼女の唇にキスをしようとしていたアルヴィンは、今さらカリンの奇行は意に介さない。

「あ! 殿下もみっけ! 執務室でボーダリー様が探してましたよ。また逃げてきましたね」

「逃げてない。メリーを愛でに来ただけだ」

 堂々と情けないことを言い切るアルヴィンの姿は逆に清々しい。

 アルヴィンは見た目だけなら王国一の美少年であるうえ、王太子としての政務も立派にこなす。
 けれどもメリズローサが絡んだ時だけは、何故だかどうしようもなくわがままになってしまうのだ。

「もうれっきとした奥さんなんだから、好きに愛でればいいんですけど、時と場合を選びましょうよー」

 全くの正論だが、カリンに言われるのだけは腹が立つ。
 本来なら今彼女は、侍女長による”王太子妃付侍女のあるべき姿と取るべき行動”なる特別講義を受けている時間のはずだ。
 だがそれを指摘する間も無く、あっという間にスイープされアルヴィンは部屋から追い出された。
 この辺りは流石アルヴィンの扱いに慣れているといったところだろうか、いやどちらかというとギリギリ不敬罪に当たりそうなことでも平気でやってのけてしまうカリンの傍若無人さの勝利だろう。

「ともかく、お嬢様に話があるんで、殿下はあっちに行っててください。おーい、殿下こっちですよー! ここでさぼってまーす!」

 バリバリの不敬罪だった。

「あっ、このっ! カリン、お前鍵かけんな!」
「いーやーでーすー。お嬢様と内緒話するんですー」

 なんともお子様なやり取りをする二人に、頭を抱えるメリズローサであった。
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