わたしのかわいいだんなさま
どうして内緒にしないといけないのかとメリズローサは首を捻る。
「びっくりさせましょう。どうせ殿下はお嬢様がこのイベントのこと知らないと思ってるんですから」
「まあ、それはそうよね。なんといっても16年分の情報が無いわけだし」
「そこにバレンタインチョコレートをババーンと出せば、愛が深まっちゃいますよ。ラブラブ間違いなしです」
そんなもんなくても充分ラブラブなのだが、びっくりさせてみたいという気持ちはわかる。
切れ長になった美しい瞳を、くりっと大きくして、頬を紅潮させながらびっくりとする可愛らしい姿を想像する。
(うーん、想像するだけでもキュンキュンするわね。……これは、見たいかも)
それに、愛は何回伝えても伝えきれないくらい山ほどあるのだ。
「でも、どこへ買いに行くつもり? ガチュールは潰れちゃったんでしょ?」
フフフフ。と、不適に笑う姿が妙に嫌らしい。
「そこで、ここです。ル・ボリー!」
(ああ、そこに繋がるのね)
「ここはですねー、去年初めてなんと着色料なしで、ピンク色のチョコレートを作ったという、超超人気店なんですよ!」
ドヤぁと、いう顔を見せるが、別にカリンの成果ではない。
「そして、このピンクチョコレートを贈ると、素晴らしい愛が芽生えるらしいんです」
「それは眉唾ものねえ。商戦に踊らされてない?」
「そんなことないですって。現にガチュールの店主と店員の愛が芽生えたんですよ!」
「その二人っ!?」
一番ダメな例を上げて何をしたいのかわからないが、どうしてもここのピンクチョコレートが欲しいらしいカリンは、行きましょー、行きましょーとうるさくて仕方がない。
別にメリズローサとしてはアルヴィンとの愛がさらに芽生えて花壇いっぱい山いっぱいになって、もそれは望むところなので問題ない。
しかし……。
「でも、それほど人気なら、あっという間に売り切れてしまわないの?」
「ですねえ。開店前から相当な人数が並んでるらしいですわ」
だとしたら無理だろう。流石に王太子妃が一般人と一緒になっては並べない。
「いいじゃないですか、王族専用の馬車駆り出して王太子妃のおなりーってやりましょう」
そしたら、一発で買えますよ。待ち時間なしです!
うひうひっと笑う姿が本当にゲスい。
「カリン、あなた本当にゲスの極みね」
「乙女。の可愛いらしい願いじゃないっすか。ウフッ!」
ちょっとなに言ってるかわからない。
わからないのだが、結局メリズローサは次の日にピンクチョコレートを一緒に買いに行く約束をさせられたのだった。