わたしのかわいいだんなさま
「よかった、メリー。ケガは無い?」
「……アル、何故ここに?」
間に合ってよかったと安堵するその金髪の美少年は、いつもの王太子のスタイルとは違い、品の良い貴族子弟といった風合いだ。一際目立つ美しさのため、あまり変装の意味はなさそうだが。
そんな彼がほんの少し拗ねたような顔をして、メリズローサに語りかける。
「だって、今朝はあんまりにもメリーがそっけないし、急に朝から出かけだすし、もしかして僕のことが嫌になっちゃったんじゃないかって心配になったから……」
(まああああ。アルヴィン殿下が可愛すぎて、私を殺しにかかってるぅうう!)
思わずそう叫びそうになるメリズローサだったが、なんとか思いとどまって優しく彼に答える。
「そんなこと絶対にありえませんわ。その……アルにバレンタインチョコレートを用意して、びっくりさせようと思いましたの」
頬を少し赤らめて、ふふふ、と笑いかければ、殿下は感激のあまりぎゅっと力を込めてメリズローサを抱擁する。
「ああ、僕のメリー……愛してるよ。君のためなら国中のチョコレートを集めて贈ろう」
「私もよ、アル。でも、そんなにいりませんわ。一粒でよろしいの」
「どうして? 僕の可愛い人」
うっとりとした顔でアルヴィンがメリズローサを見つめると、彼女はその艶やかな唇を彼の耳元へ運びそっと囁いた。
その答えを聞いたアルヴィンは、もう居ても立っても居られないとばかりにメリズローサを抱き上げて馬車に乗せてしまう。
メリズローサは、何か忘れてるような気もしたが、まあいいかとなすがままとなり、二人馬車の中でいちゃいちゃしながら王宮への帰途についた。