わたしのかわいいだんなさま
「ちょっと、お嬢様!なんで、勝手に帰っちゃうんですかっ!?」
(……あ、忘れ物!)
アルヴィンとその流れのまま、自室にてラブラブモード全開で語らいあっていた所に、カリンが息せき切って怒鳴りこんできた。
「歩いて帰ってきたんですからねっ!王宮まで、徒歩で、折角ピンクチョコレート買ってきたのにっ!」
あれで買えたのはすごいとメリズローサは素直に感動する。
「ごめんなさいね、その……殿下が迎えに来ちゃったものだから」
「悪いな、カリン」
さすがに悪いと思っていたため、二人で素直に謝ることにした。
すると意外にも口を尖らす程度で仕方がないなあと許してくれるが、こういう時は後が怖い。
(まあその時はその時よね)
「でも、結局二粒しか買えなかったんですけれどね。はい、お嬢様。殿下と二人でお食べください」
一粒ずつ可愛らしくラッピングされたものを二箱、ぽんっと投げ渡された。こういうところは気が利きすぎるほど利く侍女なのだ。渡し方はともかくとして。
「あら、一つで十分よ。あとはカリンが使いなさい」
そう言って、一箱カリンの手に返せば、いいんですか? と聞いてくる。
「もちろんよ、あなたが頑張って買ってきたんじゃないの」
それに私たちは一粒でいいのよと、殿下と顔を見合わせる。
『一粒を、一緒にお口で味わいましょう』
(そう言った時の殿下の顔ときたら、それはもう嬉しそうで可愛くて……)
今も、期待に満ち溢れているアルヴィンの顔が素晴らしく輝いている見える。
「そういう訳だから、早く持ってけ。誰に渡すか知らんが、今度は辺境送りにするなよ」
わーいわーい!と飛び跳ねるカリンに、しっしと追い払うように手を振る。
(なんだか辺境送りとか不穏なセリフが聞こえたような気がするけど、なかったことにしましょう。……ビーバリオ様に幸あれ!)
カリンがバレンタインチョコレートを渡しに行ったのを確認して、アルヴィンが部屋の鍵をがっちりと掛けた。
そうしてソファに座るメリズローサの横にぴったりとくっつく。
「メリー……」
いつもの甘い声が擦れるこの瞬間がとても好きだとメリズローサは思う。
「アル、好きよ。一生好き」
(こんなふうに自分から愛を語れるなら、イベントに踊らされるのもたまにはいいわね)
そう思いながら、メリズローサはピンクチョコレートを自分の口に含み、アルヴィンの唇とあわせて二人で仲良くその味を楽しんだ。