わたしのかわいいだんなさま
 つまりビーバリオはメリズローサではなく、白の離宮の方をおかしいという。
 流石に神童と呼ばれ、早くから王太子の側付きにとなっただけはある。あれだけの時間で的確にアルヴィンの意図を受け取ったということだった。

「そうか、そっちなのか……」

 メリズローサと会える日は、ついついそれだけに意識がいきがちなだけにその考えには到らなかった。
 そういえば、侍女長や他の古参侍女にしても、一度たりとて白の離宮に足を踏み入れたことはない、常にアルヴィンだけが離宮に入るのだ。
 それも単にアルヴィンとメリズローサの邪魔をしないためだと考えていたが、それならばアルヴィン的には真っ先に排除されるべきカリンがあの場にいることがおかしい。

 そんなことを考えていると、なんとも緩んだ顔をしたビーバリオがにやにやとアルヴィンを見つめていた。

「……なんだ、何か言いたいことがあるのか?」
「え、言っても大丈夫ですか?怒りませんか?殿下」
「話による」
「じゃあやめますね。殿下、おやすみなさいませ」

 くるりと踵を返し急いで扉に向かおうとするビーバリオのお尻にアルヴィンはグーパンチを食らわせた。
 ふぎゃっ!と声を上げてつんのめるビーバリオは、渋々と振り返りアルヴィンに向かい合った。

「いやですね、殿下って、毎回あんな美人と、むちゅっとですね、えへへ……キッスして、こう……むらむらっとか、しません?」
「……………………はぁ?」

 アルヴィンのその素っ頓狂な声に、ビーバリオは気がついた。あ、これまだじゃん、と。

「あっ、いや、待ってください。うん、聞かなかったことにしてくださいっ!じゃあ今度こそお休みなさいませーっ!」

 呆気に取られているアルヴィンからさっと逃れて部屋から脱兎のごとく逃げていく。
 一体あいつは何を言いたかったのだと、ビーバリオを大きくバカにしてアルヴィンはようやくベッドへと潜り込んだ。

 ああ、これでまたメリズローサに会えるのは18日後になる。
 夜の帳に包まれそう思うと、先がとても長く感じてしまうのだ。夢うつつの中で、今日のグリーンのドレスはとてもよく似合っていたが、王宮に来る貴族の令嬢たちの流行とは少し違っていたことを思い出す。
 次の次の面会くらいまでには新しいドレスを用意してプレゼントをしてやろうと心に決めてアルヴィンは眠りに落ちていった。

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