わたしのかわいいだんなさま
「ああ、もうダメだわ。私の人生詰んだも同然でしょ?」
「お嬢様、逆に考えましょう。なんと言っても王太子殿下とのご結婚ですわよ。よっ! 未来の正妃様!」

 幼い頃からメリズローサの遊び相手兼専属侍女として側についていただけに、同じ年である侍女のカリンは主人である彼女に対して、大層ぞんざいな扱いをする。

「何言ってるのよ、どれだけ年が離れてると思うの? 17よ、17! 殿下が今の私の年にはもう30半ばじゃない!」
「それはそれは、立派なおばさんですね」
「うるさいわね。けれど、そうよ、おばさんよ。カリン、普通17の男の子が34のおばさん相手にその気になると思うの!?」

 カリンは目線を少し上げて、考えたフリをしたあと言い放った。

「まあ、世の中にはそういった熟女趣味の人もいますからね。諦めちゃダメですよ、お嬢様」

「カーリーンー! ちょっと、そこへ座りなさい!」

 メリズローサは手に持った扇を握りしめ振り回しながら、逃げるカリンを追い回す。

「大丈夫ですよぉー。ロナリーダ男爵が祝福されたのは33歳の時でしたがぁー、ちゃんと結婚できましたしぃー、昨年とうとう奥様との間にお子様も生まれてぇー、お幸せにお過ごしのようですぅー」

「あなたっ、ロナリーダ男爵が陰で”幼女男爵”って呼ばれてるの知ってていってるでしょうにっ!」

「お嬢様ならさしずめ”若いツバメの巣令嬢”ですかねぇー?」

 扇で叩くだなんて生ぬるい。ボコボコにしてやると息巻いて追いかけるが、そこはそれ深窓の令嬢のこと。メリズローサは早々に肩で息をしだし、部屋の真ん中でヘタり込んだ。
 カリンはといえば、えっほえっほとその場で足踏みをしながらメリズローサの様子を伺っている。

「っは、は……もう、ダメ……」

(……何だかもどうでもいいわ)

 投げやりな気持ちで、ごろんと横になると、カリンがすっと覗き込んできた。

「まあ、アレですよ。どうせ結婚諦めて修道院へ行くつもりだったんだから、一遍くらい結婚してみればいいじゃないですか。結構楽しいかもしれませんよ? 結婚生活」
「……本当に、そう思うの?」
「私も一緒について行きますから、安心してくださいな」

 口も悪いが態度も酷い、それでもなんだかんだとメリズローサを思いやってくれているのだろう。そう思えば、カリンも可愛らしく思えるし、少しは気分も持ち直してくる。

「そうね、決まったことは仕方がないわ。折角の伴侶ですもの、できるだけ仲良く過ごす努力をしないとね」
「骨は拾ってあげますよ」

 ガッツポーズをしたカリンの顔に向かって、扇をぶん投げたメリズローサであった。

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