わたしのかわいいだんなさま
 王太子アルヴィンとの最初の逢瀬から、10日ほど経ったある晴天の日。
 取り決め通り、あれから毎日2、3時間、メリズローサはアルヴィンと過ごしている。
 相変わらずその姿は天使と見まごうばかりの可愛らしさだ。
「あぶー」とよだれを垂れ流している口元にだって平気でキスできる。むしろ、喜んで。
 けれども――。

「あのね、カリン。なんだか殿下……大きくなってない?」
「そりゃまあ、大きくなりますよ。育ち盛りなんですから」

 白の離宮の中庭で日向ぼっこをしながらお茶を飲むメリズローサは、カリンに渡された本をめくり同じところを何度も読み直した。

「ご自分でお座りしているのは、どうみてもおかしいわよ。まだ1ヶ月くらいじゃなかった?」
「さあ? 個人差ってやつですよ、きっと。大体私たちちっちゃい子供に縁なかったんですからわかりませんよ」
「でもね、ほらっ、ほらここっ!」

 メリズローサは広げて該当のページを見せる。だがしかし、カリンはその手でべしっと叩き落とした。

「お嬢様。恋愛にマニュアルはないんですよ。そんなものにいつまでも頼ってるからダメなんですって」

 これは、どう見ても”育児書”よっ!

 しかし、個人差です、と魔法の言葉を吐かれるとつらい。何せメリズローサはこの年になるまで本当に子供とは接したことがなかったのだ。
 んー。と、一生懸命足りない知識で考えていると、芝生に座っているアルヴィンから手が伸びて、メリズローサのスカートを引っ張った。

「うふふふ。アルヴィン殿下、ご用事でございますかー?」

 たった今までの悩みをとっとと放棄して、アルヴィンを抱っこする。
 日に日に重すぎるほど育っているが、きゃっきゃきゃっきゃと喜ぶアルヴィンを見ていると、まあいいかと思うほどに、メリズローサは彼に骨抜きだ。

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