監督と、僕。
5 また勉強
 最後に僕が、
監督と話をしたのは、
クランクアップが間近に迫った

ある日。


 その日はよく晴れていて、
珍しく撮影所をでて、
監督と僕は、手を繋いで、歩いた。



 他には誰も、
いなかった。


「うれしかった時は

 ちゃんと声に出して、
 とってもうれしかったっ!って

 言うんだぞ?


 目でみて耳で聴いて。

 自分で触れて


 それを頭がキャッチして。


 胸をどきどきさせて。

 熱くなって、フワッと抜けるそ
 れが

 どうやら
 心って、やつらしい。

 心を忘れないためにもう一回、

 声に出して。


 自分で聴いて焼き付けるんだ。

 よおく覚えて

 おけるよう。



 たのしい時も
 すごくたのしい!
 って

 言うんだぞ?」


そう
監督は、言った。
そして、


「かなしいも、そうだ。


 かなしいだけは、絶対に、

 声に出して、誰かに、
 伝えなきゃ、
 いかん。
 かなしい時は
 心に蓋をしたように、なるよ。
 声もでなくなる。


 それでも
 頑張って

 口から出すんだ!
 いるだろう?

 お母さんとか先生とか

 学校の友達とか、

 他にも。


 ぼくはかなしい、って
 きみが言った時、

 どうしたの?
 って応えてくれる人。

 判るだろう?



 きみが選ぶんだ。」
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