恋ノ初風
 凛にお姫様だっこで運ばれていくのを最後に私は眠ったのか、意識がなかった。

 そして気がついたら私は家のベットで寝ていた。今までのは夢だったのかな。でもそれでこんなに汗かくかな。喉も頭も痛いままだしやっぱり夢じゃない?嫌、夢じゃない。私は体操服を着ている。体を起こすとめまいと頭痛で視界が眩んでいく。頭痛で思わず「あぁ…」と声が出る。
「おお目覚めたか」
 部屋の扉が空いた。扉の向こうには凛がいた。
「凛?なんでいるの?!」
「おお待て動くな。大人しくしとけ」
 私は体を起こす。え?なんで凛がここに?夢なの?もし夢じゃないってことは私は早退してきているってこと。つまり普通に学校があるはずなのに凛がここにいるのは不自然極まりない。
「お前すげえ熱あるから連れて帰ってきたんだよ」
 凛が部屋に入って私の勉強机の椅子に座った。
「体まじで暑かったぞ。夏背負ってるのかと思ったわ」
 夏背負うってどんなパワーワードよ。
「ありがと…。でも凛学校は?戻らなくて平気なの?」
「保健室の先生がひとりじゃ危険だから一緒に帰ってあげなさいって。心の母さんが仕事なの知ってたしな」
 そうか。お母さん仕事だった。
「今おかゆ作ってるから。ちゃんと食って寝ろよ。お母さんが帰ってくるまではそばにいてやるから」
「凛料理できたっけ?」
「母さんがよくしてるのはお前も知ってるだろ?偶に教えてもらってんの」
「そうだったんだ」
 意外だなって素直に思う。凛が料理する日が来るなんて。
「ちょっとおかゆ見てくるから、大人しくしとけよ」
 私に指さしてそう言った凛は下に降りていった。しんどくて動く気にもなれない私は布団を被った。暑いのに寒い。風邪を引いたときに現れる独特の感覚に襲われる。凛、学校戻らないのかな。体育は確か2時間目だったから今から戻れば全然間に合うのに。私ばかりに構う必要はないのに。昔から世話されてばかり。私から凛に何もしていない。いつまでも子供じゃないし、いつまでも凛に頼ってちゃだめだ。いつもそんな事を考えているけれど、結局凛に頼ってしまう。少し甘いところを見せられたら乗っちゃう。どうしようかと考えているうちにまた頭が痛くなってきた。だから私は考えることをやめて枕元においてあるスマホをいじる。
「こらこら。病人は携帯なんか触らずに寝とく」
 部屋に入っていた凛は折りたたみ机を広げてそこにおかゆと味噌汁が乗せられたお盆を置いた。
「味噌汁まで?ありがと」
 湯気とその温かい匂いに鼻が癒やされていく。
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