恋ノ初風
「お、お前それ自分で作ったろ」
 凛が私の弁当箱を覗いてきた。
「な、なんでわかったの?」
「直感?ってやつか」
 凛が自慢げに言う。
「お母さんすごいや…私あんなにきれいに作れないよ」
「初めて作ったのか?」
「勿論。練習する時間なんてないもん。それにたまたま思いつきでやったんだし」 
 碧羅の天の元、私達は昔と何らかわりもない会話を広げている。変わっているのは体だけで、心は成長してないのかもしれないと思ってしまった。
「にしてはうまそうじゃん。ひとつもーらい!」
 褒められたことに感情を動かしていると、凛が私のお弁当箱の中から卵焼きを盗み取った。
「あ!ちょっと!」
 抵抗するも、もう私の卵焼きは凛の口の中だ。盗まれたことに対してのこの反応じゃなくて、味に自信がないからこう反応してしまっているわけで…。あ〜もう…。私は顔が下がってしまった。
「うん。美味いじゃん」
 あれ?思わず感想に私は顔をあげる。
「え?嘘でしょ?絶対美味しくないと思ったのに」
「初めてにしちゃ上出来だろ。最初からできたら努力なんて言葉生まれてない」
 凛は卵焼きを飲み込んだ。そして何もなかったかのようにもう1つ私のお弁当箱からおかずを盗む。
「誰も食べていいって言ってない」
 私は凛の言葉に夢中になっていてそれにきづかなかった。私は頬を膨らませ凛の頬をつまむ。
「俺のあげるから。好きなのとっていいから」
 凛が自分のお弁当箱を免罪符に差し出してきた。私は取られた卵焼きと唐揚げを取り返した。
「どうだ。美味いだろ!」
「お…美味しい」
 見た目も味も私のより全然美味しい。凛ママすごい…。そう言えばお母さんも凛ママに料理教えてもらってるって言ってたっけ。じゃあ私も凛ママに教えてもらえばもっと美味しく作れるかも。
「すごいだろ?」
「うん。流石凛ママ」
 凛ママは料理好きでこんなにも上手に作れるのに、凛はあんまし料理が好きじゃないみたい。だからもったいないなって思う。絶対凛だって料理がうまくなるし凛が料理できるって知ったら他の女子たちはきらめいて湧くだろうに。凛は決して悪い顔ではなくどちらかと言うとカッコいい方。中学生の時も周りの友達は「凛君カッコいいよね!」という言葉をよく聞く。逆に凛の頬を悪く言う人はいなかったように思う。それってすごいこと。まあ、このふざけた性格を除けば今頃何人もの人に告白されていただろうけど。そこが唯一の欠点とも言えるかもしれない。
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