狂愛メランコリー

 向坂くんは少し黙って、じっと私を見据えた。

「お前ってさ、何だかんだ三澄が好きなんだな」

 自分を殺そうとした相手を命を捨てて助けるなんて異常、だろうか。

 私は眉を下げて笑う。

「……分かんないんだ、私にも。気付いたらあんなことしてて」

 理人が死んでしまうかもしれない、と思ったら、必死で動いていた。

 きっと、あのときの向坂くんと同じだった。

 とにかく何とかしなきゃ、って一生懸命だったんだ。

 彼が死んだらループは終わっていた。

 私も助からないままだったかもしれない。

 けれど、そう気付いたのは冷静になった今だ。

 自分のためじゃなくて、あのときは一番に理人のことを考えていた。

 とにかく死んで欲しくなかった。

「そっか。……大事、なんだな」

「……うん」

 それ以外にどう表現すればいいのか、私にも分からない。

 色々あって、色々こじれて、理人に対する感情も迷子になって、彼と紡いできた時間にも自信がなくなった。

 ……でも、大事。

 変わらず、理人は私にとって大事な存在。

「けど、もう気付いてんだろ?」

 驚いてしまった。

 向坂くんもこのループの真理に辿り着いていたんだ。

 つまり、理人の死か、私の死────どちらかを選び、受け入れなければならないということ。

 私は再び彼の言葉に頷いた。

「どうすんだよ」

 答えはもう、半分出ている。

 残りの半分を占める迷いは、私のわがままと未練だ。

「向坂くん」

 彼の問いには直接答えず、私は静かに呼びかけた。

「私、決めたんだ。今回でループを終わらせる」

「今回で?」

「もうこれ以上繰り返す必要ないよ。答えも見つかったし」

 理人が私を殺す理由も、ループが始まったきっかけも、その終わらせ方も。

 私は微笑を湛えたまま、彼を真っ直ぐに捉える。

「……私、向坂くんに出会えてよかった」
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