狂愛メランコリー

 呟くように尋ね、理人を見上げた。

「予知夢?」

「実はわたし、夢を見たの。誰かに殺される夢」

 これほど彼のことを気にしてしまうのは、それも原因のひとつだった。

「夢なんだけど、すっごくリアルで。絞められた首が痛くて苦しくて」

 そっと首に触れる。
 その感覚が残っているようで、ひりついた気がした。

「……誰に殺されたの?」

「それは覚えてないの。でも、もしかしたら向坂くんなんじゃないかなって」

 理人は即座に笑い飛ばしたりすることもなく、突飛(とっぴ)なわたしの話を真面目に聞いてくれていた。

「……そっか。確かにそうかもしれないね」

 少し意外な反応だった。
 彼なら、このことも“気にすることないよ”と微笑んだりするかと思った。

「タイミング的にも妙にしっくり来るし、関係あってもおかしくないよね」

「信じてくれるの……?」

 自分でも瞳が揺れているのが分かる。

 こんな非現実的な話、いくら理人でも取り合ってくれないと思ったのに。

「当たり前でしょ。信じるよ、菜乃の言うことならすべて」

 理人は優しくわたしの手を取った。

 心から慈しむような眼差しと微笑みを向けられ、ついたじろいでしまう。

 本当に童話の中の王子さまみたい。
 でも、わたしは彼に釣り合うお姫さまなんかじゃない。

 ────そう分かっているからこそ、いつからか理人の隣が少し窮屈になった。

 それでも、わたしには彼しかいない。

 わたしの話を聞いてくれるのも、ひとりぼっちにしないでくれるのも、大事にしてくれるのも、理人だけ。

 ふいに、ぎゅっと手に力を込められる。

「だから、菜乃も僕を信じて。僕の言うことを聞いてれば大丈夫だから」

「理人……」

「あいつのことなんて考えなくていい。どうせ何もできやしないんだから……」
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