狂愛メランコリー
第2章 純愛メランコリー

第5話 終わらない悪夢


 悄然(しょうぜん)と朝の支度を整える中、熱でもあるみたいに身体が重くて、ついため息がこぼれてしまう。
 息苦しさと倦怠感に(さいな)まれた。

『さよなら、菜乃』

 あれからまともに眠れた日なんて1日もなかった。
 きっと、そのせいだ。

 ────学校へ行く前にコンビニでミルクティーを買って、その足で校門を潜る。
 昇降口を抜けると階段を上がった。

 寂しげに褪せたこの世界の、どの場所にも理人の幻影を探し、そのたびに胸が締めつけられた。

 屋上へ続く階段にさしかかると、上段に向坂くんの姿が見えた。
 段差に腰を下ろしていた彼と目が合う。

「向坂くん……」

「……おー」

 相変わらずぶっきらぼうな態度だったけれど、どこか憂鬱(ゆううつ)そうにも見えた。

 何も言わず、屋上の扉を開けてくれる。

 ふちに寄ってミルクティーを供えたわたしは、理人に黙祷(もくとう)を捧げる。

「……気済んだか?」

 後ろから彼に問われ、そっと目を開ける。

「……理人、後悔してないかな」

 ふと、思ったことがそのままこぼれた。

 彼が命を引き換えにしただけの価値が、本当にわたしにあるのだろうか。

「後悔なんかしてねぇだろ」

 ざ、と向坂くんの履き潰した上靴の裏がアスファルトと擦れる。

「まんまとあいつの思惑通りだ」

「え……?」

「三澄は死に物狂いでおまえを手に入れようとした。でも望みを叶えるのは無理だって気づいて、狙いを変えたんだよ」

 向坂くんはポケットに手を突っ込んだまま、淡々と告げる。

「もっと分かりやすく言おうか? おまえを愛してた三澄は、おまえを自分のものにしたかった。でもおまえにそんな気はねぇだろ?」

 それは確かにそうだ。
 わたしの理人を慕う気持ちは、彼の抱く“好き”とは最初から重ならないし交わらない。

「あいつもそう気づいた。何回繰り返しても同じだって。だから自分が死ぬことにした」

「どういうこと……?」

「気づかねぇか? おまえさ、ずっと三澄のこと考えてるだろ」
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