狂愛メランコリー

 紆余曲折を経て、こじれた世界を駆け抜けて辿り着いた結末は、あまりにも残酷だった。

 望んだ“最後”じゃなかった。

 それでも、理人が遺してくれた未来をまた、駆け抜けていくしかない。

 ……もう、何も怖くない。

 理人との思い出が糧となってくれるから。

 勇気や自信をくれる向坂くんがいるから。

(私も理人も、もう独りじゃないよ)



 学校へ行く前にコンビニに寄って、ペットボトルのミルクティーを買った。

 昇降口で靴を履き替え、階段を上っていく。

 屋上前に着くと、そこには変わらず向坂くんがいた。

「……よ」

「おはよう、向坂くん」

 理人の件があって、もともと立ち入り禁止だった屋上は厳重に閉鎖された。

 けれど、向坂くんはドアノブに巻かれた鎖を勝手に破り、鍵を壊して出入りしているようだ。

 二人して屋上へ出る。

 向坂くんは伸びをして、私は朝の空気を吸い込んだ。

 屋上の縁へ歩み寄った私は、買ってきたミルクティーをそこに置き、黙祷を捧げた。



「……三澄は本気で愛してたんだな、お前のこと」

 ぽつりと彼が呟く。

 私はそっと目を開けた。

 幼なじみとして、異性として、人として、彼の抱いてくれていた想いは確かに、愛と呼ぶにふさわしいものだったのかもしれない。

 とろけるほど甘くて、刺すように苦いその愛に、もっと早く気付いていたら、また違った結末を迎えていたのだろう。

 ……今となってはもう、振り返っても戻ってやり直すことなんて出来ないけれど。

「────向坂くん」

 私は立ち上がり、彼を見上げた。

 このループの中で、出会えば必ずと言っていいほどの確率で助けてくれた向坂くん。

 ちゃんと私の話を信じて受け止めてくれて、ずっと味方でいてくれた。

 本来の出会いがどんなだったか、私には記憶がない。

 でも、どの出会い方も嘘じゃない。

 どの世界線での出来事も、彼との時間も、覚えていないだけでしっかりと刻まれている。

 ────いつも、気弱な私に道を示してくれた。

 諦めそうになっても励ましてくれて、お陰でまた頑張れる気がした。

 優しさと勇気と自信をくれる向坂くんに、私はやっぱり惹かれていた。
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