狂愛メランコリー
第3話
夢か現か、その狭間を漂っているうちに夜が明けた。
────4月30日。
アラームはまだ鳴っていない。
全然寝られた気がしない。
なかなか眠れなくて、やっと眠りに落ちてもすぐに目が覚めた。
そのたびに不安に苛まれ、何だかどっと疲れてしまった。
「…………」
起き上がっても、身体が重くだるい。
(学校、行きたくないな……)
向坂くんと顔を合わせるのが怖い。
また、昨日のようなことがあったら────。
「菜乃、起きてる? 理人くんが来てくれてるわよ」
階下からお母さんの声がした。
いつの間にかそんな時間になっていたようだ。
何やら二人の話し声が小さく響いていたかと思うと、不意に部屋のドアをノックされた。
「菜乃」
ドア越しに理人に呼びかけられる。
お母さんが招き入れたのだろう。こんなことは今までにも何度もあった。
「…………」
どくん、と心臓が鳴る。
……何だろう。
今はなぜか、あまり理人に会いたくない。
「まだ寝てるの? 遅刻しちゃうよ」
苦く笑う彼の姿が容易に想像出来る。
私は頭まで布団を引き上げた。
「今日は行きたくない……」
「どうして? 体調でも悪いの?」
寝不足なせいか、体調は確かによくない。
でも、それより大きな理由が他にある。
理人は本当に分からず問うているのだろうか。
それとも、彼にとってはどうでもいいことなのだろうか。
あるいは、私を試してるの?
「怖いから……。向坂くんが」
つい、口にしてしまった。
ドアの向こうが静かになる。
昨日、理人が言っていたことをきかなかったから、怒ってしまったのだろうか。
長い沈黙だった。
昨日からそうだ。
向坂くんの話題になると、理人は様子がおかしくなる。
ぴりぴりするような空気感を肌で感じながら、私は彼のリアクションを待った。
「……入るよ」
ややあって、理人が言う。
ドアが開き、彼が部屋へ踏み込んでくる。