狂愛メランコリー
第二章 恋心と愛憎

第4話


 はっ、と目を覚ました。

 スマホのロック画面を見る。

 4月28日。
 アラームよりもかなり早く起きてしまった。

「…………」

 不思議と眠気はない。

 夢見が悪かったせいだろうか。

 ────誰かに殺される悪夢を見た。

(私の首を絞めてたのは、誰……?)

 少しだけ息苦しいような気がした。

 思わず首に触れるが、当然気のせいだろう。

 余裕をもって朝の支度をし、理人からのメッセージが来る前に家を出た。



 門前で先に待っていた私の姿に、彼は少し驚いたように目を見張る。

「おはよう、菜乃。今日は早いね」

「おはよ。何だか早く目が覚めちゃって」

 理人と二人、並んで歩き出した。

「怖い夢見ちゃったんだー」

「夢なんて気にすることないよ」

 眉を下げた私に、理人は優しく微笑んでくれた。

 ぽん、と頭に手を載せられる。

 私が落ち込むと、彼は昔からいつもこうしてくれる。

 朝の柔らかい陽射しに照らされ、その温もりは尚さらあたたかく感じられた。

「そうだね。……あ、今日もお昼一緒に食べられる?」

「そうしたいところだけど、今日はクラス委員の集まりがあるんだ。菜乃、先食べてていいよ」

 残念に思いながら頷こうとしたとき、理人が「あ」と声を上げる。

「たまには教室を出てみるのもいいかもよ。中庭とか、今日あったかいし」

 確かにそれは新鮮な提案だった。

 私はほとんど教室を出ないし、出ても移動教室かお手洗い程度のものだ。

 あるいは理人と一緒にいることがほとんどで、一人で行動したことは数回しかないかもしれない。

「……うん、行ってみようかな」

 校舎は中庭を囲むようにロの字になっている。

 中庭ならどの位置からでも目に入るし、集まりを終えた理人もすぐに来てくれるだろう。

「終わったらすぐ行くよ」

 私の心を読んだかのように彼が言った。

 思わず小さく笑い頷く。

 学校へ着く頃には夢のことなどすっかり忘れ、鬱々としていた気分も晴れた。



 昼休みになると、私は窓から中庭を見下ろした。

 ざわめきと人にあふれている。

 設置されているベンチも埋まっていて、割と混んでいるようだ。

 このまま教室で食べようかと悩んだものの、結局ランチバッグを持って席を立った。

 趣向を変えて、屋上の方へ行ってみようかな。

 立ち入り禁止だが、もしかしたら扉が開くかもしれない。

 そう考えると、少しわくわくした。



 軽やかな足取りで階段を上っていく。不意に頭上で影が揺れた。

 最上階へと繋がる踊り場で、思わず足を止める。

「……!」
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