狂愛メランコリー



 昼休みになると、わたしは窓から中庭を見下ろした。

 意外と人の姿が多くて、設置されているベンチも埋まっている。割と混んでいるようだ。

 このまま教室で食べようかと悩んだものの、結局ランチバッグを持って席を立った。

 趣向(しゅこう)を変えて、屋上の方に行ってみようかな。

 立ち入り禁止だけれど、もしかしたら扉が開くかもしれない。
 そう考えると、少しわくわくした。

 ほとんど教室を出ることのない、そしていつも理人と一緒にいるわたしにとっては、それだけで冒険のような気分だった。



 軽やかな足取りで階段を上っていくと、ふいに頭上で影が揺れた。

 最上階へと繋がる踊り場で、思わず足を止める。

「……!」

 上段に人がいた。
 ()は壁に背を預け、悠々と座っている。

 ここからでは横顔しか見えないけれど、目を閉じているのが分かる。

 眠っているのかな。
 そんなことを考えた矢先、ふと目を開けた彼がこちらを向いた。

「……なんか用?」

 屋上に続く扉の小窓から射し込んだ光が彼をふちどる。

 風で(こずえ)が揺れるように、心がざわめいた。
 何だろう、この感じ────。

「えと、そういうわけじゃ……」

 違和感のようなものが萌芽(ほうが)する感覚を覚えながら、小さな声で答える。

 不良っぽくてふてぶてしいその見た目や態度に、思わず萎縮(いしゅく)してしまう。

 そのとき、彼が身を起こして正面からわたしに向き直った。

「あ。俺、おまえのこと知ってるかも。三澄の彼女だ」

「え?」

「よく噂されてんじゃん。ほとんど悪口だけど」

 ほとんど悪口、という遠慮のない言葉にショックを受け、訂正が一拍遅れてしまう。

「か、彼女じゃないよ。理人は幼なじみ」

「へー。ま、どっちでもいいけど」

 さして興味なさげに言われた。
 自身の膝に頬杖をつき、わたしを見下ろす。

「飯食うならその辺座れば?」
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