狂愛メランコリー
     ◇



 ────4月28日。

 アラームより5分遅れて目を覚ますと、ベッドに寝転んだままあくびする。

「早く起きなきゃ……。理人(りひと)が来ちゃう」

 起きなければならないのは分かっているのに、つい再び瞼を閉じてしまいそうになる。

 そのとき、アラームではなく着信音が鳴った。

 寝ぼけ(まなこ)で“応答”をタップする。相手は見なくても分かる。

『おはよう、菜乃(なの)。迎えにいくからそろそろ起きて』

「……おはよう。今日もありがとう」

 よく世話を焼いてくれる、幼なじみの理人だ。

 彼は、ひとことで言えば“完璧”。
 何でもそつなくこなすし、性格も優しくて紳士的。その上、整った顔立ち。

 女の子たちが陰で“王子”なんて呼んでいるくらいだ。

 それでも、だめなわたしを見捨てることなく、一番近くにいてくれる彼は優しい。

 わたしはひとりじゃ何にもできないのに。



 支度を整えて家を出ると、門の向こう側に理人が待っていた。

「ごめん、お待たせ……!」

 慌てて駆け寄ると、柔らかい微笑みを返してくれる。

「大丈夫。ちゃんと起きられたみたいでよかった」

「理人のお陰だよ。危うく二度寝するところだった……」

 わたしがそんなだから、彼も世話を焼かざるを得ないのかもしれない。

 きっと、心配と迷惑をかけてしまっている。
 申し訳ない気持ちとありがたい気持ちが募った。

「そっちのクラスはどう? 友だちできた?」

「うーん……なかなか」

 眉を下げて苦く笑うと、図らずも心ごと沈んでしまう。

 ────桜も散り、そろそろ新しい環境にも慣れてきたかという時期。

 けれど、わたしにはまだ友だちと呼べるような間柄の子はいない。

 去年は理人と同じクラスだったからよかったものの、今年は離れてしまったからひとりぼっちだ。

 それに、そもそもわたしは女の子たちからあまりよく思われていないようで、なおさら難しい話だった。

「……そっか。僕のせいだよね、ごめん」

「ううん! 理人は何も悪くないよ」

 理人自身ではなく、わたしが“王子”のそばにいるせいだ。
 彼に頼りきりでいるわたしのせい。

 だけど、それでいい。
 わたしには彼さえいてくれれば十分だから。
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