狂愛メランコリー
第6話
アラームを止める。
時間通りに起きられた、と思ったのに、よく見たらスヌーズだった。さっと青ざめる。
「やば……!」
早く起きてゆっくり準備しようと思っていたのに、これではそんな余裕もない。
急いで着替えを済ませ、朝食をとる間もないまま家を出た。
「あ、菜乃」
ちょうど理人が門の前から顔を覗かせたところだった。
慌てて駆け寄り、息を整える。
ばたばたしていたせいで、何だか暑く感じた。
「お、おはよ」
「おはよう。もしかして、寝坊したの?」
理人が苦笑しながら、からかうように首を傾げる。
「そうなの……。夜、何だか眠れなくて」
思わず恥じらい、笑って誤魔化した。
向坂くんのことを考えていたせいだ。とても理人には言えないけれど。
「どうして? 何か悩み事?」
「ううん、そういうわけじゃないよ。大丈夫」
そう答え、彼と並んで歩き出す。
心なしか今日は、いつもより陽射しがあたたかい。
優しい春のにおいが風に乗って運ばれてくる。
そのせいか、……ほかの理由も相俟ってか、不思議と足取りが軽やかになった。
今日もあの階段へ行ったら、向坂くんに会えるかな?
今度はもっと、彼の話を聞いてみたい。
「……何かご機嫌だね? いいことあった?」
「えっ? そ、そうかな」
思わず頬に手を当てる。かぁ、と熱を帯びたのだ。
心当たりは一つしかない。
核心めいたことを言われたわけでもないのに、なぜだか勝手に心音が加速する。
理人には、芽生え始めたこの気持ちをすぐに見抜かれてしまいそうだ。
「……菜乃、今日は一緒に昼食べるよね?」
確かめるように問われる。
「え、っと」
つい言い淀んでしまう。
正直なところ、出来れば向坂くんに会いに行きたい。
……そうしてもいいのかな。
(大丈夫だよね? 私がいなくても、理人が独りになることなんてないし)
彼なら分かってくれるはずだ。
何と言っても、私の一番の理解者なのだから。
「ごめん、理人。今日も他のクラスの子と食べてもいい?」
窺うように彼を見上げた。
どこかショックを受けたような、悲しい表情の理人と目が合う。
ちく、と胸が痛んだが、私は今の言葉を撤回出来なかった。
自分の感情を優先した。
「……そっか。分かったよ、残念だけど」
「ほ、本当にごめんね」
「謝ることないよ。菜乃に友だちが出来たのは僕も嬉しいし」