狂愛メランコリー
理人は優しく微笑んでくれる。
やっぱり、思った通りだ。
理人ならそう言ってくれると思っていた。
私が彼に頼り切らず、助けを得ないで色々と出来るようになることを、彼も望んでいるのかもしれない。
────それなら、もっと頑張らなきゃ。
(……大丈夫)
向坂くんだって認めてくれたんだから。
自分は駄目駄目だ、なんてもう簡単に諦めない。
理人の言う通りにするだけじゃなく、私の意思で色々とやってみよう。……恋だって。
4限終わりのチャイムが鳴った。
私はランチバッグを持ってすぐに席を立つと、階段を上っていく。
向坂くんは変わらず同じ場所にいて、私の姿を認めると口を開いた。
「よ、今日も来たんだな」
私は「うん」と頷き、段差に腰を下ろす。
この場所は何だか秘密基地みたいだ。
「向坂くん、いつも早いね」
チャイムが鳴ってからすぐに来たのに、彼は既に悠々とここにいた。
「ま、サボってるからな。ここが一番いいんだよ」
人が来ないから、だろうか。
例えば保健室であれば、先生に色々と干渉されそうだ。
もしそういう理由なら、私は邪魔だったりしないかな?
「お前も気に入ったならサボりに来れば?」
私の脳裏を過ぎった心配を察したのか、向坂くんが先んじてそう言った。
「いいの?」
「別に俺の許可なんかいらねぇよ。お前の勝手だろ」
ぶっきらぼうながら優しい言葉だった。
────少しずつ、向坂くんのことが分かってきた。
彼は一見、粗暴で無神経なのだけれど、実は人のことをよく見ているし、その機微にも敏感だ。
そして案外、素直なところもある。
「何?」
思わず、じっと見つめてしまうと、彼は不思議そうに見返してきた。
「……優しいよね、向坂くんって」
「は? 俺が?」
「うん、本当に」
「なわけあるかよ。三澄の方が優しいんじゃねぇの」
頭の中に理人の微笑む顔が浮かんだ。
慈しむような眼差しと、頭を撫でてくれるあたたかい温もりを思い出す。
「確かに理人も優しいけど……ちょっと違う。何て言うか、向坂くんは私に前を向かせてくれるの」
理人の優しさを否定するつもりはない。それは間違いじゃないから。
でも、不意に気付いてしまったのだ。今朝見せた、あの表情の真意に。
────彼は正直なところ、私が変わることを喜んでいないのだと思う。