狂愛メランコリー
理人は確かに優しいけれど、その優しさはわたしを甘やかして、だめな現状に留まらせる。
その甘さに溺れたら、それこそ理人に依存してしまうだろう。
その点、向坂くんはちがっていた。
すぐ弱気になるわたしを奮い立たせ、変わろうとしている意思を汲んで認めてくれた。
『……頑張ってるよ、おまえは』
だからこそ、前を向ける。前に進める。
向坂くんがそう言ってくれたから、だめだなんて簡単に諦めないでいようと思えた。
「……ふーん。何かよく分かんねぇけど」
彼はパンの包装を破る。
「俺は嘘とかつけねぇから、思ったこと言ってるだけ。優しくなんてねぇよ」
「……でも、わたしは救われてるよ。ありがとう」
そう言って笑うと、今度は向坂くんがわたしを見つめた。
「……おまえってさ、よく恥ずかしげもなくそういうこと言えるよな」
「えっ?」
「俺、ひねくれ者だから一緒にいると擦れるぞ」
わたしは小さく笑う。
「それならそれでいいよ。わたしが向坂くんといたいだけ」
「……だから、そういうとこだっつーの」
彼は呆れたようだったけれど、それ以上は何も言わずにパンを頬張っていた。
拒絶されなかったことを嬉しく思いながら、わたしも箸を口に運ぶ。
「甘いもの好きなの?」
彼の手にしているメロンパンを見て尋ねた。
何となく意外なセレクトだ。
「……まあ、嫌いじゃねぇけど」
「そうなんだ! わたしも好きなの」
思わぬところに共通点を見つけて、ますます嬉しくなる。
「そういえば、駅前に新しいケーキ屋さんができたって────」
そこまで言いかけて、はたと言葉を切る。
この話、どこで、誰から聞いたんだっけ?
「……花宮?」
急に黙り込んだわたしを訝しむように、向坂くんは眉を寄せている。
「あ……ごめん。ちょっと」
うまく誤魔化すことができたらよかったのに、掠めた違和感はあまりに大きくて戸惑ってしまった。
自分で知った覚えも、誰かに聞いた記憶もないことを、わたしはどうして口にしたんだろう。