狂愛メランコリー
突き放されたのだろうか。
あるいは、拒絶?
いずれにしろ、彼女の言葉に大きな衝撃を受けた。
しばらく思考が止まり、言葉を失っていた。
「……そう」
やっと発せられたのはその一言だけだった。
受け入れたわけじゃないのに、理由を聞きたいのに、あれこれと尋ね喚くのはみっともないと感じて自制してしまう。
菜乃にはもう、僕は必要ない────。
そういう意味だろうか。
焦燥感が、心と皮膚を逆撫でする。
「…………」
何となく、察しているのだ。
彼女の心変わりのきっかけは、彼女の“友だち”が与えたに違いない。
「それと……」
僕の心情など知る由もない菜乃は、僕が食い下がらなかったことで彼女の言葉を受容したと思ったのか、その話題を切り上げた。
荒波が立つ本心をひた隠しに、僕はいつものように微笑んで首を傾げる。
「もう一つ、言いたいことがあって」
……秒読みが始まる。
嫌でもそれを悟った。
僕たちの世界が崩れていく、絶望へのカウントダウン。
彼女は頬を赤らめ、幸せそうな笑顔を湛えた。
「私、好きな人が出来たかも」
そう言うのだろうことは、あらかじめ分かっていた。
昨日も今日も、向坂と随分親しげにしていた菜乃を見ていた。
その恋心に気付かない方がおかしい。
「……へぇ、そっか」
黒く焦げて、燃え尽きた心が灰になる。
余裕を失った僕は、微笑を保つ気力さえなくしていた。
すっかり舞い上がっている菜乃は、気付かず嬉しそうに笑っている。
────天使みたいに可愛い。
純真できらきらした瞳も、癖のついたふわふわの髪も、僕を呼ぶ舌足らずな声も。
昔からずっと変わらない。
僕がいないと、何も出来ない。
僕だけを信じて頼ってくれる菜乃。
(……だったはずなのに)